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【本】『ハロウィーン・パーティ 』(アガサ・クリスティ/ポアロ)

『ハロウィーン・パーティ 』☆☆☆★★

これまで登場したいろんな人物が出てくるお話。まずは物語の発端をつくるオリヴァ夫人、そして『マギンティ夫人は死んだ』で登場したスペンス警視…いや引退しているので元警視も登場。本作はポアロの方からスペンスを訪ねて事件に興味を持たせる、『マギンティ夫人は死んだ』とは逆バージョン。そして本人は出てこないものの情報屋ゴビィに『鳩の中の猫』のブルストロード(バルストロード)校長に『マギンティ夫人は死んだ』での容疑者の話も出てくるので、ある程度クリスティ作品を読んだ後に取り掛かった方が楽しめるかもしれない。ただ本筋には関係ないので、知らなくても全く支障なく読めますが。そしてこの話のラグラン警部は、『アクロイド殺し』の同名の警部とは別人ということでいいのかな?

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ハロウィンのパーティーに魔女に、妖精の住む庭、井戸に落ちた子猫の唄。幻想的というか童話的というか、クリスティ作品の中でも変わった独特の雰囲気を持つ話です。これは私がクリスティ作品を読み始めた初期の頃に読んだ作品の内の一つ。私は子供の頃YWCAの英会話教室に通っていたのですが、そこであちらのゲームやパーティーやバザーなんかの行事が行われていて、当時は今のようにハロウィンやらなんやらの欧米の行事はあまりなじみが無かったので、見知らぬ外国の風習にワクワクしていたものです。この話を読んでいると、話の幻想的な雰囲気と共に、そういう子どもの頃の気分が自然と思い出されるので好きな作品。ただ全体的に小粒で、またミステリーとしてはそれは無理がないだろうかという点も多々あり。

取りあえずあらすじをWikipediaより引用―
ウドリー・コモンの「リンゴの木荘」でハロウィーン・パーティの飾りつけの準備中に殺人を目撃したことがあると言い出した13歳の少女、ジョイスが翌日、パーティ用に用意された水の入ったバケツに首を押し込まれて溺死しているのが見つかった。パーティに出席していたアリアドニ・オリヴァ夫人[1][2]は、ただちにエルキュール・ポアロに助けを求める。
ジョイス殺しと彼女が見たという殺人の謎を解き明かすため、ポアロはウドリー・コモンに住む旧友、スペンス元警視[3]を訪ね、捜査に乗り出す


⇒ドラマ版感想はこちら:【ドラマ】名探偵ポワロ『ハロウィーン・パーティー』-全体的にイメージが違う
アガサ・クリスティ 作品・感想一覧はこちら

以下、ネタバレあり
死者のあやまち』のネタバレもあり

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いや、話としてはわくわくしてはダメな話です。クリスティ作品にしては珍しく子供が犠牲になります。いやな事件です。子供を狙うとなると犯人が変態・変質者で探偵が出て来る余地がなくなるためか、クリスティ作品で被害者が子供という話は少ないですね。他のクリスティ作品で子供が犠牲になったものとして思い浮かぶのは…『死者のあやまち』ぐらい?ジョニー・ウェイバリーみたいな誘拐やオリエントみたいな過去話しは除くとして、他にあったかな。そして、子供が犠牲になるところ以外でもどことなく『死者のあやまち』を思い出させる点の多い話です。オリヴァ夫人が登場する話で、過去の殺人に根がある点、死体は敷地内に埋められている点、殺人の実際の目撃者は別にいて、最初に殺された子供は実際の目撃者から話をきいてペラペラとしゃべってしまい殺されたという点、子どもがゆすり(というかお小遣い稼ぎ)をしようとする点、犯人は男女のペア、等々。

そして地の文で探偵の内面が饒舌に延々と語られる部分や、美しい物・はかないものに感じる哀しさなんかが、どことなく近い時期に発表されたミス・マープルの『復讐の女神』にもつうじるところのある作品です。いかにも後期に書かれた作品、という感じ。だいぶ前に書かれていた『カーテン』を除き、この作品はポアロ物の長編としては最後から2番目です。ちなみに地の文では事件に関してだけなく、ポアロが自分の美醜について思考していたりしているのが面白い。そして相変わらず田舎で小さいパテントレザーの靴を履いて足の痛みに苦しみつつも、人の忠告は頑として受け入れず、田舎靴を履くぐらいなら死ぬぐらいの勢い。面倒なおじさんだこと。

美しく幻想的で、しかしどことなく不吉な雰囲気を漂わせた、この世のものとは思えないクオリ・ガードン。そこを創造した美しい造園師と、一人リスや小鳥と戯れる妖精のようなミランダ。二人の登場するシーンは中でも印象深いですね。まさか親子だったとは。あの日見たシーンは人を殺した後だったのだと理解した後もマイケルが好きだったというのが、なんとも不思議なような、ミランダらしいような、魔法にかかったようでこの話にぴったりなような不思議な読後感。

しかし物語の雰囲気はバッチリなのですが、いかんせんなぜジョイスを、しかもあんなに急いで殺す必要があったのかがわからない。だってジョイスは誰が殺したというのはもちろんのこと、いつ、どういった殺人を見たのかも何も言っていない。嘘つきジョイスの言っていることがまず本当かウソかもわからず、仮に本当だとしてもそれがオルガ殺しに関連するとわかる発言は何一つなく。クオリ・ウッドに埋めに行く時に誰かに見られていたような気がしたことと、嘘つきの子供の漠然とした「殺人を見た」という言葉だけで、あんなに人がいる場所で殺すものでしょうか?殺人の動機としてはすごく弱い気がしてしまいます。

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もし、話には書かれていない部分で、ロウィーナが殺す前にジョイスに問いただしていて「クオリ・ウッドで見た」というところまで聞きだしたというならまだわかります。しかしミランダがジョイスにどこまで話していたかはわかりませんが、作品内でも言われているようにジョイスは犯人が誰かまでは知らなかったと思われるからこそあの場で言えたわけで、ジョイスの口の軽さと見栄はり具合から、もしもっと知っていたなら皆に馬鹿にされた拍子にもっとぺらぺら話しそう。なのに話していないということは、ミランダはジョイスに「殺人を見た」ということ以外は知らせていないと思われる。となると、ジョイスの言っているのがオルガ殺しであるとはロウィーナには分らないし、すぐに殺さなければと思うほどの危機感を感じさせるような発言は出ていないと思うんだけど…。という具合に読み終わった後は煙に巻かれたような納得のいかなさと、でもまぁこの話の雰囲気いいしそれで流されちゃえばいいか的な2人の自分が出てきてどっちが勝つの?まあいいかミランダ可愛いし、的な所に落ち着く話。

ミランダは幻想的な外見と時折大人びた思考をみせながらも、同時にポアロに近道を教えてあげようと生垣の隙間を潜らせたり、子供はあっちへ行っていなさいと追い出そうとする母親にニヤッと笑ってみせるなど子どもらしい可愛らしさのある女の子。ラストは彼女が次の犠牲にならなくてよかったとホッとします。クリスティ作品に出てくる小生意気な子供は可愛いですね。

殺人というのは金、愛憎、恐怖(保身)といったお決まりの動機から行われるというクリスティの説通り、今回の殺人も金と恐怖から行われたわけですが、その金の欲しい理由が、自分のために完璧な美の島を作ろうという芸術家魂というかナルシズムからきているのが驚きです。ナルシストのマイケルは綺麗に自殺していますが、そう言えばマクベス夫人のロウィーナの方はどうなったのか描かれていいません。マイケルの方は、あまりに飛び過ぎててこいつ狂ってるなと感じる程度ですが、ロウィーナの方は身近にいそうな怖さがある。美人で有能で人を自分の好きなように使ってきた、人から頼りにされ煙たがられるPTA的女性。まだまだ人生先がある時分に夫が突然障害者になったところで、非常に美しい男性が生活に入り込んでくる。これまで思い通りに人生を動かす力のあったロウィーナは、不倫をする時も迷いなく、オルガを殺すときも子どもたちを殺すときも、邪魔者を排除するように、むしろ自分が迷惑をこうむってるぐらいの感覚で、ろくに罪悪感も感じていなかったんだろうな、と思わせる怖さがあります。ロウィーナの内面自体はあまり本書で書かれませんが、それゆえに読み終わった後に一体どんな人生を歩んできたのかいろいろ考えてしまいます。ロウィーナの夫は車にひき逃げされて事故死したことになっていますが、そういえばあれは結局本当に事故だったんでしょうか?



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