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【ドラマ】名探偵ポワロ『ひらいたトランプ』―ストッキングのシーンのみを楽しみに見る

『ひらいたトランプ』

原作読んだ時、国籍不明で悪魔的容貌に見えるシェイタナというのがどうも想像しにくかったのですが、ドラマはイメージぴったりですね!しかしそれも外見のみで、中身は真逆…?とりあえずあらすじを、NHKオンラインより引用。

シェイタナは犯罪芸術を集めているという謎めいた男だった。彼の屋敷で開かれたディナーに、ポワロを含め8人が招待される。食後、2組に分かれてブリッジをすることに。ポワロはミステリー作家のオリヴァやウィーラー警視と同じ組になる。夜も更け、客がそれぞれ帰ろうとしたところ、一人だけブリッジに参加しなかったシェイタナが、客間で胸を刺されて死んでいるのが見つかる。


⇒原作感想はこちら:【本】『ひらいたトランプ』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―なんで犯人当たらないんだ…!
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

シャンティイ 大厩舎



相当な部分が原作から変わっています。私は原作からガラッと変わるのは別に嫌ではないのですが、今作に関してはかなり微妙かな~。変わった点はありすぎて書ききれませんが、とりあえず4人の主要容疑者の変更点をざっくりと…といいながら書いていたらすごい量になってしまった。長いです。

■ロリマー夫人
ドラマではアンと親子になっていますが、原作では他人。ただロリマー夫人がアンをかばって偽の自白をするという筋書きは原作でもあります。原作では実は病にかかっていて余命いくばくもないロリマー夫人、若い時に人を殺した自分の姿と、シャイタナを殺した(とロリマー夫人は思い込んでいる)アンを重ねて哀れに思ってかばうのですが、正直ちょっとこれはないだろうという筋書きでした。話の終盤でどんでん返しの連続の中のひとこま、ラストの話を盛り上げるためにこういう風に設定したのかもしれませんが、そんなんで見ず知らずの人間の人殺しの罪をかぶるとか、そしてロリマー夫人が自白したのを知らないはずのドクターロバーツに罪を着せられて自白の上自殺した風に見せかけられるとか、あまりに乱暴すぎる謎展開。なのでドラマでは親子にしたのかな。この辺はドラマの方がかなり自然ですね。なお、ロリマー夫人が過去にどういう殺人を犯したのかは、原作では語られません。多くの殺人者がやる事、つまり殺人の言い訳をすることをしなかった点でポワロに賞賛されています。


■デスパード少佐
ドラマではラクスモア教授の妻と不倫(?)している設定でしたが、原作ではラクスモア夫人に一方的に惚れられ、しかも少佐も自分に惚れていると盛大に勘違いされています。ある夜ラクスモア教授が熱病にうかされ危険な河に入ってしまいそうになるのを、咄嗟に銃で足を打って止めようとしたところ、「私を巡ってケンカはやめて~」と腕に縋りついた奥さんによって軌道がそれて銃殺してしまう。見てたのは現地人だけだし、奥さんは自分が殺したこともわからず「そんなに私を愛していたなんて。あぁなんて罪深い女」と陶酔し、外部から見たら完全に勘違いされる条件はそろっているので結局熱病で死んだことにして埋めてしまう。という、ポワロも震えるおっそろしい理由wでの事故。それがドラマでは麻薬で錯乱した夫に殺されそうになった夫人を助けるためという、なんとも男前な理由に。最後アンをかばうのと相まって変態だらけの登場人物のなかではかなりのイケメン枠。


■アン
アンとローダが逆になっていますね。ローダはドラマではアンを支配し手元に置こうと、ベンスン夫人を殺しその罪をアンに擦り付けた上に、最後河へ突き落し結局自分が死んでしまいますが、原作ではなんの屈託もないからっと明るい人物。ベンスン夫人殺しは、原作では夫人が間違って飲んで死ぬようにアンが瓶を洗面所の棚に置いたというシンプルな解です。そして当初アン目当てで家にやってきたデスパード少佐が次第にローダに惹かれていくのに嫉妬し、またローダがアンのいた家で過去に死人がでたことをオリヴァ夫人に喋ってしまったことを危惧し、ローダを突き落とし殺そうとするもデスパード少佐が救出、アンは溺死。

というように原作アンは盗癖はあるわジトッと暗いわで嫌~な人物像、ドラマではまともな人のように改変されていますね。このあたりは、原作でローダがオリヴァ夫人に過去の人死にの話を打ち明ける際のめっちゃ不自然な流れを修整したかったのかも。原作では、2人の家に来た時にオリヴァ夫人が昔のことを尋ねようとしたらアンの態度が急に不愛想になった理由を、わざわざローダがオリヴァ夫人の家を後から訪ねてきて釈明し(「昔いた家の人が事故で死んでひどいショックを受けた、だからアンはそれについて考えたり話すことが耐えられないんです~」云々)、過去にアンの周りで死人が出たことがわかるという、なんともご都合主義な展開。ドラマでは、ローダがアンに罪を擦り付ける、あるいはアンという奴隷を精神的に縛る縄をより強くするためという理由をつけてきました。

今作原作ではデスパード少佐に関してもアンに関しても、全体的に証拠はないし他の解釈もできるけどそんなの些細なことで過去に起こった殺人の真実はとにかくこれが正解なんだ、いちいち説明するもの面倒だから登場人物に全部喋らせちゃうね★とばかりにどーんと読者に提示しちゃっています。ページの都合上か、常日頃どんな人物の言葉も信じず全員を疑うと言っているポアロが故意にラクスモア教授を殺したわけではないというデスパード少佐の言葉をあっさり信じたり。痴情のもつれによる殺人というのがデスパード少佐の心理に合わないとしても、いつものポアロなら他の理由による殺人の可能性を考えそうだし(ロリマー夫人にしたように)、そこであっさり少佐の言葉を信じる理由にはならないのよね。そこらへんの原作の雑な感じは、全体的にドラマでは多少修正が入っている気がします。…気がするものの、さらにぶっ飛んだ設定を突っ込んできて何がなにやらの展開に。

■ロバーツ医師
不倫を相手の配偶者に咎められて医師評議会に公訴すると脅されたため、予防接種に紛れて感染させて殺害…という部分は同じなのですが不倫相手が違います。なんとドラマでは不倫相手は夫の方。なんで…!この改変はわけわからんわ、グラナダ版ミス・マープルか。原作の、秘書がペラペラと過去の一患者のことをペラペラしゃべってくれるというご都合主義的展開を、ブリッジの決まった相手を聞くというクッションを挟んでより自然な会話にするため、なんだろうか…。

■ついでにシェイタナも
原作は死ぬ気なんかなく、普通に探偵陣、完全犯罪者陣を4人ずつ呼んでパーティーしてほくそ笑んでいただけ、そしてこのパーティーで自分を捕まえさせる気だと焦った一人の犯人に殺されてしまう、という間抜けなシェイタナさん。ドラマでは生に執着がなく病んでいたシェイタナが、わざわざ究極のスリルを選んで自分を殺させたということに。え、マゾ…? なので薬を飲んだというのもドラマオリジナルです。「無意識の中のえくすたし~」…スリルを求めるなら睡眠薬飲まないでドキドキの瞬間を堪能したほうがいいのではないでしょうか?いや、私にはわからない拘りのえくすたし~ポイントがあるのかもしれませんね。しかしここは原作の方が、人の弱みを握って心理的に揺さぶることに歓びを感じていた残酷なシェイタナに合っていそうな気もする。最後の、シェイタナの写真を前にポワロさんの勝利宣言、この構図はなかなか良し。

さらには他作品で出てきたレイス大佐はヒューズ大佐に、バトル警視はウィーラー警視に変わってしまって、さらにはウィーラー警視まで容疑者 & 変態に。この変更は分らなくもないです、4人が容疑者といわれても、絶対他に盲点となる人物がいてそいつが犯人なんじゃろ?とは誰しもが一度は疑いたくなる部分。なのに他作品でもでてくるわりと誠実な人達を登場させてしまったら、容疑者とは思いにくいし。しかし他作品の探偵陣の集結という豪華クロスオーバー的な側面がなくなってしまったこと、そして探偵陣VS殺人者陣という構図が崩れてしまったという点で、この部分の変更が個人的には一番残念です。

意外な盲点に容疑者がというのは、これ単独の話だったら面白いですけれど、これまでのアガサ・クリスティ作品、あるいは名探偵ポワロシーズでも散々やってるので、この作品だけは容疑者は4人だけですよとカードをテーブルに晒したうえで、さて、誰が犯人でしょう、という謎ときを楽しみたかった。…まあ犯人知ってるんですけど。

上でも書きましたがこの話の原作は、”容疑者は4人だけ。そしてとにかく過去に殺人を犯している。4人の過去をどうやってシャイタナが知ったか、あるいはポアロたちが知ったかは重要じゃないんだ!とにかく4人の中から犯人当てなされ!”という具合にいろいろ適当に処理されてテーブルにカードをドーンとだされ推理を迫られるような雑さが目立ちます。しかしこの話の肝は、いろいろな証言・証拠はあれど、実はブリッジの得点表から犯人が示唆されているんだよ、というところにあります。4人各々の性格や、どんなふうにゲームを進行させ犯行のチャンスを作ったか、それらから犯人がすでに暗示されており、あとの過去の殺人やシェイタナ殺しの細々した事実を探っていくのは、それを裏付けるための確認作業に過ぎないのです。つまり割とどうでもいい。だからこういった雑さがあっても、原作は面白く読める。一方ドラマは事実の唐突な提示も会話の不自然さも減ったものの、それを主に痴情・趣味嗜好関連で変更するというどこぞのミス・マープル的改変。

ロバーツ医師、ローダ ⇒ 同性愛
シェイタナ ⇒ マゾ?
写真家(原作登場せず) ⇒ 歪んだ性の償いw

性的指向関連のインパクトが強くて、で、なんで殺されたんだっけ?そんな話になっています。

と文句言いながらも、この話は繰り返し見ている、主にストッキングのシーンを。原作だと、おじいさんがあんなに高価なストッキング何足も買ってんまぁいやらしい!と店員さんに白い目で見られるのですが、ドラマでは「なんてお幸せなご婦人でしょう!」と店員さん大喜び。この店員さんがお気に入り。箱からそ~っと出すしぐさも、お買い上げでハイテンションになるところも大好き。あんなもの目の前にしたら鼻血吹いちゃうよね。パリの、超極細の、まるで蜘蛛の糸でおったみたいなストッキング。なんてお幸せなご婦人でしょう!履けるものなら履いてみたいけど、もし手に入れることができても電線するのが怖くて履かずに飾っておきそうです。箱の絵も素敵。店員さんも可愛い。もうあのシーンだけ何十回でも繰り返して見れるよね。

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