トラベルブロガーmugiの大人女子旅ブログ「旅行鞄にクリスティ」

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【ドラマ】名探偵ポワロ『鳩のなかの猫』―鳩のなかの猫が犯人、鳩の中のペンギンはポワロ

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『鳩のなかの猫』

タイトルの『鳩のなかの猫』は場違いな人間のいることを表す言葉のようです。この猫というのは、名門女子高に紛れ込み女子学生の膝を観察する小太りのおじさんのことですかね? ポワロさん、原作だと緑に光る眼がよく猫のようだと例えられているし…いや、ポワロさんはペンギンか。以前『なぞの盗難事件』 の感想で、ポワロさんってペンギンに似ているという感想を書いたことがあったのを思い出しました。私にもまだ女学生のようなピチピチとした発想力があったのね、というどうでもいい話はここまでにして、あらすじはNHKオンラインより引用―

名門女子校で起きた教師殺人事件。さらに学園の生徒で、ラマット国の王女が行方不明に。

名門女子校のメドウバンクを訪れたポワロは、校長のバルストロードから「次期校長の人選で悩んでいるので助言してほしい」と頼まれ、しばらく学校に滞在することに。そんな中、体育教師のスプリンガーが、深夜に体育館で殺されるという事件が起きる。スプリンガーは嫌みな性格で、教師や生徒たちから好かれていなかった。さらに学園の生徒で政変が起きたラマット国から来た王女が行方不明になる。



突然始まる派手な銃撃戦に、思わずこんなんポワロっぽくないと思いそうになりましたが、そういえばそもそも工作員やら暗黒組織やら山奥の地下の秘密基地やらポアロの双子の兄による替え玉やらけったいな設定がでてくるのがクリスティ作品だった、と(主にビッグフォーの悪口を思い浮かべながら)思い直す。コードネーム:エンジェル程度で吹き出しそうになってはいけないわ。

ビッグフォーといえば、今作の脚本の人はビッグフォーの人と同じだったんですね。ドラマ版ビッグフォーは、原作における何度もくじけそうになる自分を鼓舞しながらどうにか読み終わった結果「読んだ時間を返せよ!」と叫びたくなるようなけったいな設定部分(つまりストーリーの大部分)を、そんなんあるわけないしと逆手にとった話にして、”嗚呼、つまらない話であつたな”と菩薩の気持ちで心静かに受け止められる程度にまで改善させた迷脚本でした。今作も結構原作と変わっていて戸惑う部分も多々ありましたが、見終わった後はなかなか面白かった、と結構な死人が出ながら爽やかな後味。

⇒原作感想はこちら:【本】『鳩のなかの猫』(アガサ・クリスティ/ポアロ)―学園生活における充分な大きさのお乳とは
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

図書館


今作の原作も、諜報員やらルビーやら革命やらの噴飯物の設定が出てきてメインの殺人に関しては読んでいてしらけることこの上ないのですが、原作の感想でも書いたようにこの話のキモは女の園での人間模様にあります。生徒側では、女学生の友情とぷりぷりと弾むような好奇心の可愛らしさに癒されつつ、年齢が上がった教師の方では女同士のプライドの戦いや秘めた嫉妬と、女同士の陰陽を堪能できる話。なのでもうラマットとか正直どうでもいい☆ ドラマでは特に女学生軍団がキラキラと可愛かったですね~。あのシャイスタ王女でさえ、夜皆のいるベッドに押しかけてきて殺人者は私を狙っているよ!とガールズトーク始めた日には、可愛く見えだします。そして原作での目玉のブラジャーのシーンは、やはり「お乳」ではなく「胸」でしたw なんか思わずこんな学園生活を送ってみたかったと思ってしまう、少女たちの愛らしさ。

一方でドラマでは大人の女の内面描写はトーンダウン。2番目の犠牲者のヴァンシッタート先生が出て来ないので、女の園でのドロドロは多少マイルドになっています。この辺りは原作ママの方がよかったかなと思いつつ、尺の関係でしょうがないのかも。ヴァンシッタート先生の役割は、チャドウィック先生リッチ先生に半分こに受け継がれ。

原作では、周りに次期校長候補と思われているのは、ヴァンシッタートというまるでバルストロード校長のコピーのような教師で、彼女自身もそういう認識で行動している。開校当初からの共同経営者でもありひそかに自分こそが次期校長になると思い込んでいたチャドウィック先生は、そんなヴァンシッタートに長いこと嫉妬していた。

引退を考え始めたバルストロード校長は自分のやり方をそのまま継続していきそうなヴァンシッタートには物足りなく思うところがあり、一方リッチ先生ならば…と思うものの若すぎると後継者に悩む。そういった校長の悩む態度を見て、チャドウィックはやはり次は自分にと悩んでいるのだと勘違いするものの、結局校内で殺人事件が起きるという学園存続の危機の際に校長は自分ではなくヴァンシッタートに校長代理を任せて外出してしまった。嫉妬と学園の将来で思い苦しみ寝付けなかったその夜、侵入した不審者を撃退すべく手に武器を持って忍び寄った体育館で、一人暗闇にしゃがみ込むヴァンシッタート先生を見た瞬間に、半ば無意識のうちに砂袋を振り下ろして殺してしまう。

原作ではチャドウィック先生は本当に人を殺してしまいます。学園への深い愛と嫉妬で寝付けずベッドの中で悶々と思い悩む様子や、殺してしまった後の動揺等、自分でもこの立場だったらこうなるかもという説得力があります。普通の人が強い衝動に駆られて、そんなつもりなく殺してしまったというのがリアリティあって、もしかしたら自分もこんな魔に取り込まれる瞬間があるかもと想像してしまうような。大人側の描写は、原作の方が迫力ありますね。

そしてリッチ先生はドラマだとまじめでおとなしそうですが、原作だと若干エキセントリックで、髪もボサボサ。しかしダイナミックな個性とヴィジョンを持っている。学園のやり方を守ろうとし過去を踏襲するやり方のヴァンシッタート先生との対比になっていて、これまで時には冒険をおかして現在の学園を作り上げたバルストロード校長が後継者として彼女を選ぶのが良くわかる描写になっています。ちなみに、スプリンガー先生はあんな超人的な槍投げではなくて原作では銃で撃たれて死亡。

そしてドラマと原作との最大の違いは、ポワロさんがドラマでは校長の友人になって最初っから出ずっぱりだったこと。原作では話も大詰めになったころに登場、ルビーをラケットからほじくり出したジュリアが、母経由の知り合いという縁で助言を求めに大冒険してポアロさんの元を訪ねるという形式。正直ポアロ出て来なくてもよかったんじゃない?的な話だったのが、ドラマでは校長に後継者選びの助言を頼まれるわ表彰式のスピーチまでやらせてもらえるわ女学生のバレエのレッスンを覗き見してご満悦の一方で、ポワロさんがいながら名門女子高で2件の殺人、1件の殺人未遂、1件の誘拐自作自演が。名探偵、そんなんでいいんですかね?いや、でもポワロさんのあそこでのお仕事は後継者選びだからいいか。いっぱい死んでるけど、最後のジュリアへの粋なプレゼントで取りあえず帳消しということで。



 
       
 
         
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