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【ドラマ】名探偵ポワロ『第三の女』 ―オースティン・パワーズな孔雀デイビットが見たかった


『第三の女』

あ~やっぱりオリヴァ夫人好き。原作でも好きだったオリヴァ夫人のお目覚めシーン、ドラマはセリフはだいぶ変わっていましたが、それでもここの掛け合いは大好きですね。「大丈夫、こういう人なんです」w ちなみに、原作でのオリヴァ夫人の目覚めの第一声は、「孔雀を買いましょう、頭をぶんなぐれ!」です。孔雀というのはデイビットのことも指していて派手な恰好が孔雀に似ているのでオリヴァ夫人が名付けたのですが、他の人はそんなこと知らないので、頭を打っておかしくなったと思われるわけです。しかしドラマ版では、いまいちデイビットが孔雀っぽくないのですが、これは時代設定のせい?原作は1966年出版でLSD等の薬物も登場し、クリスティ作品の中ではかなり後期の、最近に近い年代の話。ドラマはどの話も基本的に1930年代で固定のようなので、その時代の服装を再現したため孔雀っぽさがなくなったのでしょうか。


肩までの長髪の栗毛の巻き毛で、サテンや赤いベルベットのチョッキとやらの美しい派手な服を着た、男だか女だかわからない今どきの恰好したきれいな青年。そう言われても私は服装史に詳しくなくいまいち想像できないため、ドラマで見るのを楽しみにしていたのでちょっと残念。

↓の動画はミス・マープルの時も載せたけど、私が年代ごとの服装を見るのに使っている動画なのですが、ここでとりあげられている1960年代の服装もデイビットのイメージとはちょっと違うようです。





60年代というとビートルズあたりの時代なのかな?でもビートルズってそんなフリフリしてたっけ…。ベルベットにフリフリというとなんか『オースティン・パワーズ』みたい、と思って調べたらドンピシャ。モテモテ有能スパイ・オースティン・パワーズはちょうど1967年の設定でした。つまり原作デイビットは↓こんなんってことですかね?

 

デイビットのイメージ丸つぶれですがw

そしてノーマは小汚い、ついさっき引き上げられたような肉体的魅力を欠いたオフィーリア。あの時代の若者をクリスティが表現するとこうなるのね、という点が興味深い。

ちなみに時代設定の話で言えば、ドラマではポワロさんは依頼に来たノーマに唐突に化石呼ばわりされていましたが、原作では後期の作品で作品ごとに一応歳を重ねている設定なので、姿を見たノーマに「あまりに年をとりすぎている」と出ていかれたわけです。しかもドラマでは結構きつく言われていましたが、原作では「…あの…そのう―こんな失礼なこと言いたくないのですけど…」とためらいながら、申し訳なさそうに言われるという。こっちの方が精神的にきついわ~。

とりあえずあらすじをNHKオンラインより引用―

ポワロの家に若い女性ノーマが「人を殺したかもしれない」と助けを求めてくる。ノーマはポワロの知人のオリヴァ夫人に紹介されたというが、それ以上なにも語らずに帰ってしまう。ポワロはオリヴァ夫人に会い、彼女もノーマとは知り合ったばかりだと聞かされる。ノーマは夫人と同じアパートの一室に2人の女性クローディアとフランシスと3人で住んでいた。そのアパートのさらに別の部屋でシーグラムという女性が亡くなっていた。

⇒原作感想はこちら:【本】『第三の女』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―小汚いクリスティ版オフィーリア
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

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話は結構変わっています。基本的にノーマが可哀想な方向に。原作ノーマは、ポアロが身の安全をはかってうまいこと偶然を装って出合わせた医者に保護され、デイビット亡き後はシレッとお医者さんと結婚するというクリスティ作品王道の頭に花の咲き具合なのですが、ドラマでは母親の自殺に立ち会ってしまうわ彼氏は知り合いと浮気してるわ自分は逮捕されるわで一人孤独に奮闘します。最後実父の酷い言葉は聞かされるしね。そうそう、しれっと書きましたが、原作ではデイビットは死亡…え~っと…なんで死んだんだっけ?原作は被害者達がなんで死んだんだか、ことごとく全く印象に残らずw

ざっくり読み返したところ、2ndガールと組んで国際的な絵の贋作づくり&薬の密売をしていた犯罪組織の仲間だったということです。もうね、この設定だけで原作の設定が手を広げすぎてしっちゃかめっちゃかなのが分かるよね、いつものクリスティのお決まりのパターンよね。デイビットはノーマには惚れていたものの、欲をかいて偽父を強請って殺された、と。この絵画の贋作についてはドラマではほとんど出てこなかったですね。ノーマの本当の父親と母親の、対になっている肖像画があり、その父親の方を偽父バージョンに描き替えて、昔と面影が変わりませんな~と思わせる手立ての一つに使っていたもので、ポアロが推理するうえでの手がかりにもなっていました。

犯人と被害者の設定も違います。上で原作では被害者がなんで死んだんだか印象に残らないと書いたけれど、ついでに殺されたデイビットだけでなく、メインの被害者でありながら ”あれ、この話誰が殺されたんだっけ?いやそもそも死人いたっけ?あ、デイビット死んでるか” ぐらいに非常に存在感の薄かった被害者ルイーズさんが、ドラマではしっかり最初から死体として登場。堂々たるメインの死体の貫禄を見せつけていました。原作はノーマは本当に人を殺したのか、どころか、そもそも本当に人死んでるのか?状態で一体何の事件を調べているんだか分らないまま200ページ進みます。

ちなみにルイーズさんは、原作では乳母ではなく本当の父親の愛人。今では落ちぶれて生活していたが、かつての金持ちの恋人がアフリカから帰ってきたという噂を聞いて、これ幸いとしつこく手紙を出す。それを偽物であることがバレそうになった偽父が殺す。なので犯罪への関与度も偽父と2ndガールは同等か、もしかしたら偽父の方が主犯という筋書き。…さっきから「偽父」と入力しようと「にせちち」とうつと「偽乳」に変換されるのは、貧乳の私への当てつけですかね?

それはさておき、原作とドラマの最大の違いは2ndガールです。異母兄弟ってなに?!なんか昼ドラみたいな展開になってる!単なる端役で有能な学校の校長先生が父親の浮気相手で、隠し子までつくっちゃってるよ。この設定のせいで、被害者ルイーズの設定が浮気相手から乳母に変わったんですかね。

原作ではノーマの偽父はアフリカで再婚して夫婦でイギリスへ帰国。新しい夫人は、ノーマがいる時に急に消火器系統の具合が悪くなり入院するとこが頻発する=ノーマが継母を殺そうとしている…?という疑惑が起こっていたところに、ノーマが人を殺した(かも)という冒頭の事件が起こり、ノーマの異常性を裏付ける根拠の一つとして登場します。そしてこいつが2ndガール。クリスティ作品お決まりの、演劇関係者による一人二役です。

2ndとしても継母としても、ノーマやポアロと対面しており、どちらも同一人物だと気が付かない。特にノーマがいくら頭が鈍いとは言え、暫く一緒に暮らしていた継母と、しばらく一緒に暮らしている2ndが同一人物とわからないはずがないだろう!という原作の大きな大きな欠点を、ドラマでは、2ndガールと同一人物なのが継母ではなく誰も会ったことのない妹ということにして補ってきたのでしょうか。しかしその変更した点に生き別れの異母兄弟とか、大勢の前で死んだふりとか、最後の謎解きで再登場とかそんなクリスティ作品みたいなけったいな設定を持ってこなくていいんだ、これじゃまるでクリスティ作品だわ!酷い!

復讐のためであんな犯罪方法えらびますかね?まず母親(校長)以外に偽父の正体を見破った乳母という生贄をうまいこと見つけるでしょ、それを殺して、さらにノーマに自分が殺したと信じ込ませるとか、ちょっと手が込みすぎ&無理ありすぎな気がしないですかね?ドラマ版のノーマは精神的に少々危ない部分があるものの、原作のように薬を飲まされてはいないので、さすがにそんなんで自分が殺したと思い込むことを当てにして犯行をするのは、危ない橋を渡りすぎな気も。

他にも、ノーマへの悪意に満ちた心理攻撃(性格悪いだけじゃ?)、とかいまいちこれといった証拠がないのもモヤッとする要因か。しかしよく考えたら原作もそんなもん。ドラマ版よりすっきりしたラストなのでケムに巻かれますが、なんせ誰がなんで殺されたんだか、またもう思い出せないぐいらいの話ですから…。

そんなこと言いながらも、ドラマはラストの「笑ったぞ」がいいですね。なんとなくいよいよドラマシリーズも終わりになってきたな、という雰囲気も感じさせ。長かった再放送ももう終盤ですね。ちなみに原作ラストは、ノーマに「年をとりすぎていると言ってごめんないさい」されてお詫びのキスしてもらって終わりです。役得。



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