旅行鞄にクリスティ

海外旅行とアガサ・クリスティのブログ 最近はマイリトルボックスレビュー・コスメ・ファッションに侵食されぎみ


【ドラマ】ミス・マープル『予告殺人』―名作の完全映像化、そしてイケメンクラドック警部

『予告殺人』
製作:1985年
ミス・マープル役:ジョーン・ヒクソン (マクイーワン版はこちら

これは面白いです!150分で長めですが、見終わってみればあっという間。ヒクソン版は、やはりほぼ原作に忠実です(あらすじは『予告殺人』原作感想参照)。

話の筋やミステリー部分ももちろんですが、登場する村の各家庭が村人1・村人2みなたいな十把一絡げの描写じゃなく、それぞれ個性を出して描かれていて見ていて楽しいです。特に警察が犯行時の状況を聞き込みに来た時の、それぞれの家庭の返答シーンは、家庭によって違いがはっきり出てて面白い。みんなほんと好き勝手言ってます。皆同じ状況を体験し、同じような内容を質問されているはずなのに、それぞれ頭の中で勝手な記憶や自説を加えてしまっていて、こうして噂に尾ひれがついて村中をめぐっていくんだろうな、というのがよくわかる。中でもスウェッテナム夫人と息子のやりとりのところがお気に入りです。 

約90分のマクイーワン版に比べてヒクソン版は倍近くの150分、村の住人達にリトルパドックの同居人達と、登場人物がやや多めなこの話の群像劇的な側面まで描くには、やはりこのぐらい時間が必要だよね。牛の集団が公然と道を横切るのどかな村に住む良き隣人たち、はたして本当に…?

  ⇒あらずじ、『予告殺人』原作読書感想はこちら
  ⇒マクイーワン版ドラマ『予告殺人』視聴感想はこちら
  ⇒アガサ・クリスティ 作品・感想一覧はこちら



登場人物の配役はというと、正直なところ全体的に皆思い描いていた人物像より老けていたw 原作のイメージとも結構違ったな~。そして残念ながら物資の乏しい時代背景のせいか、女優さんも衣装も地味で華がない。そのかわり原作で私一押しのクラドック警部が、やたらイケメンだった。若くて切れ者な原作でのイメージとは違って、白髪交じりでちょっと貫禄ありすぎ?なきらいもありますが、落ち着いた物腰で、特にジョークへの受け答え時の微笑が非常に格好良い。非常に格好良い!思わず2度言いたくなるほど非常に格好良い!はい、3度目。演じているのはジョン・キャッスルという俳優さん。思わず他の出演作品を検索してしまった。残念ながら知っているものはなかったけど。

※追記
同じくクリスティ作品の名探偵ポワロ『エッジウェア卿の死』にでていいました!⇒【ドラマ】名探偵ポワロ『エッジウェア卿の死』 ―私のクラドック警部が…!


原作では善良なまぬけキャラだった姪のバンチは、ドラマでは天然ながら意外に鋭いおちゃめさんに。空いたおまぬけ枠はマーガトロイドに移動したようです。マーガトロイドは登場するだけで、あ、これはボケ枠来たな、という雰囲気を醸し出してる。ヒクソン版はシリーズ通して妙な笑いどころがありますけれど、特に今作では全体的に掛け合いのような会話がテンポよく、人いっぱい死んでいるのに妙な明るさがあります。



以下ネタばれあり

20151113_1796-001.jpg

事件の再現をするヒンチとマーガトロイドの掛け合いなんか、まるでコントを見ているようでした。真顔でぼけるマーガトロイドにつっこみのヒンチ。「ほら、銃をもって」「それスコップよ」のあたりはほんと好きです。ぽけ~とした顔でガニ股で足おっぴろげてボケたことを言う、ころころしたおばちゃん。画面に映るだけでなんか笑いが。吹き替えの人の声も妙にはまっていたし、マーガトロイドはほんと反則だわwww それだけにマーガトロイド死亡の時はもう、あ゛あ゛あ゛~という感じでした。


大切な人を殺す前に、せめて最後の日を楽しくしてやろうと乏しい物資からケーキの材料を集め、綺麗なもので身を飾り、パーティを開いてやるというバンナーの誕生日パーティのくだりは、この話のとても印象深い点です。一番下に引用した犬の例え話↓は原作にないこのドラマオリジナルで、悲しいような、おぞましいようなこのエピソードを上手く現している。

バンナー役は笑顔の素敵な人で、人懐っこく無邪気な雰囲気。原作で、犯人は最後は隅に追い詰められたネズミのように手当たり次第殺して行ったという例えがあったと思うけれど、このドラマでもマーガトロイドといい、バンナーといい、誰の恨みもかわなそうな、この人には死んでほしくないと思うような人でさえ(いや誰が死ぬのもダメなんですが)殺さなければと追い詰められてしまうのが、この作品の怖いところ。最初は遺産を貰うために、ちょっとした嘘をつくだけのつもりだったのに。



いつも作品で印象的だった台詞を一文選んでエントリー最下部に載せているのですが、この犬の例えと、ブルーバードカフェのケーキを評したマープルさんのお言葉「さっき食べてみたけど、サーモンの味がしたわ」のどちらにするか迷いました。どんなケーキなんだ…。毎回素敵な英国流アフタヌーンティを堪能できるミス・マープルのお茶のシーンも、物資不足の強調された今作では、代用品の人工甘味料を使ったとんでもケーキが登場する惨憺たるものでしたw

まるで犬を殺す前に頭をなでてやるみたいに ――ジェーン・マープル



 
関連記事

 ヒクソン,