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【本】『スリーピング・マーダー』―噴射器片手に階段を駆け上る老嬢ミス・マープルの最終話

『スリーピング・マーダー』☆☆☆☆★ 

ミス・マープル物を年代順に再読しよう企画、ついにラストの『スリーピング・マーダー』です。といってもこの作品、アガサ・クリスティの死後にミス・マープル物ラストとして刊行されるように契約していたものなので、発表されたのは1976年ですが、実際に執筆されたのはかなり前の1943年。ポアロの『カーテン』も似たような出版背景ですが、『カーテン』がポアロラストの事件として描かれているのに対し、『スリーピング・マーダー』には特にそういった描写はありません。

後期に執筆されたミス・マープル物では、ミス・マープルもさらに年をとり、大好きだった庭いじりも医者から禁止されているため庭に目を向けないようにしている描写があったり、初期のころの登場人物は数人天寿を全うし亡くなっていたりします。しかし今作『スリーピング・マーダー』ではマープルさんは元気に草むしりをし、後期には亡くなっている登場人物も登場してきます。クリスティが『スリーピング・マーダー』を書いた当初は作中の年代としても最後のマープル事件として書いたものの、実際に執筆していくうちに『スリーピング・マーダー』で設定した以上の年月がたってしまったのか、それとも『スリーピング・マーダー』は単に刊行順が最後というだけで特に作中の年代は意識していなかったのかはちょっとわかりません。

復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


作品の雰囲気も、執筆されたのが40年代なので、後期の落ち着いたちょっと陰鬱でまわりくどい雰囲気ではなく、アガサ・クリスティの乗りに乗って勢いのあった時代のものに近い。上記の描写の件もあるので、個人的にはミス・マープル最後の事件は実質最後に執筆された『復讐の女神』で、『スリーピング・マーダー』は番外編というか、執筆された1943年、『動く指』と同時期の事件としてみています。

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さて話の中身ですが、クリスティが何回か扱った「回想の殺人」物になります。物的証拠も見つからないぐらい過去に起こった(かもしれない)殺人を、当時を知る者達の記憶を頼りに解き明かすものです。クリスティの「回想の殺人」物の中で一番好きなのはポアロ物の『五匹の子豚』ですが、次に好きなのはこの『スリーピング・マーダー』、眠れる殺人、まさに回想の殺人といった題名ですね。『五匹の子豚』の方が、事件当時の情景や関係者達の心情が鮮やかに蘇って来るように描かれており、それに比べると『スリーピング・マーダー』は少し弱いかなという気がします。もう少しヘレンに関する描写が欲しかったかな。ざっくりあらすじをまとめてみると―

結婚を機にイングランドへ移住し新居を探していたグエンダは、偶然通りかかった海辺の避暑地で小さな白い家見つける。”これが私の家だ!”思った通りの家具、思った通りの浴室、思い描いていたとおりの理想的な家。

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しかしその家に住みだしてから、グエンダに奇妙なことが起こりだす。庭に通路を作るために植え木をどかしたところ、土の下から古い階段が出てくる。居間と食堂の間にドアを取り付けようと壁を取り壊すと、塗り込められた壁の中からドアが出てくる。鍵のかかった作りつけの戸棚をこじ開けると、昔の壁紙が―グエンダがこうであったらいいと想像した通りの壁紙が現れる…。この家の過去の状態が見えるのか、それとも私の頭がおかしくなったのか。

混乱するグエンダは家を離れる。そこで気晴らしにと連れて行かれた劇場で、ついに死体を見つける。自分の記憶の中に、知らない女、ヘレンの死体を。


出だしから好きなクリスティ作品は『予告殺人』『杉の棺』『パディントン発4時50分』等いくつもありますが、この話もかなりお気に入りの部類です。戸棚の奥に昔の壁紙が出てくるところなんてぞくぞくしますね。ちょっとしたホラー風味?でも特に暗い怖い話ではなく、全体的にテンポよく読み進められます。

以下がっつりネタばれあり(『復讐の女神』のがっつりネタばれもあり)



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(※注 この写真はドラマでもイギリスでもなく、青森ですw 弘前に旅行に行った時に撮った旧東奥義塾外人教師館という洋館のもの)

犯人は妹のヘレンを独占的に不健全に愛していた年の離れた兄で、結婚し、自分の手の届かないところに離れていこうした妹を絞殺する。前作『復讐の女神』も、「少女を愛し厳格に育てていた保護者が、子供から女性となって自分から巣立っていこうとした少女を殺す」という物。その後クリスティが亡くなってしまい死後出版契約だった『スリーピング・マーダー』が刊行されたので、運悪く同じ犯行動機の作品が続いてしまいました。なので刊行順に読むとすぐ犯人はわかってしまうかな。と言っても初読の時はいつものとおり全くわかりませんでしたが。読み返すと、リリーへの手紙やヘレンの筆跡等確かにこいつが犯人しかないと思えてしまうのに、初読の時はいつもわからないのは何故なんだ。

犯人が分かったとしてもこの作品、面白いです。読んでいるとぐいぐい引き込まれる。特に、最後から2番目の章「猿の前脚」から解決までの流れが臨場感があって好きです。テーブルに両肘をついて、昼食の後片付けを前に、今朝の騒ぎを思い返すグエンダ。出口のない謎を考え混乱しながら、食器を洗い家事をしていく場面。何かが来るぞ来るぞという予感を盛りたてます。そして来るのはもちろん真犯人。ついでに虫退治の噴射器を手にしたマープルさんまで来ます。わはは。犯人は虫かよ。正義の味方マープルさん、武器は石鹸水です。いいですね。階段駆け上がって来ちゃいますからね。ついこの間、ミス・マープル役を務めたジェラルディン・マクイーワンさんが亡くなるという悲しい知らせがありましたが、作品の中のマープルさんは、いつまでもお元気です。いつまでもいつまでも、元気でおちゃめなおばあさん。同じような出版背景の『カーテン』でのポアロさんのことを考えると、扱いの差に愕然としますが。



話の本筋関係ないですが気になった点。作品の最後の方でプライマー警部の、牧師館の殺人事件に関わったメルローズ大佐からミスマープルのことを聞いたというセリフがありますが、これメルローズ大佐じゃなくてメルチェットの間違いだよね…?そしてリムストックの近くで起こった毒入りペン事件って何だ?リムストックの事件と言えば『動く指』だけれども…。

by カエレバ
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