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【ドラマ】ミス・マープル『鏡は横にひび割れて』 ―忘れるということの難しさ

『鏡は横にひび割れて』 

マッケンジー版(グラナダ版)です。これは泣けます。原作の感想でも書きましたが心にズーンとくる話なので、見終わった後は鬱々とします。あらすじは原作感想の時に書いたので省略、ドラマも大きな改変なく、おおむね同じです。

まずは軽い話題から。『書斎の死体』でも舞台になったおなじみゴシントンホール、落ち着いたお屋敷はハリウッドスターらしく改装されてかなり華やかになっていました!そこで開かれるパーティ、ゴージャスな調度品にパーティの食事、カクテルを持ったボンキュッボンの女性と目の保養満載。まぁこのウキウキ気分も、見終わった後には跡かたも無くなっていますが。

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バントリー夫人はもちろん、ヘイドック医師にチェリーも登場。しかし私お気に入りのクラドック主任警部はいない…。なんでいつも省かれるんですかね。いいキャラだと思うんだけど。しかしティドラー巡査部長がぷりぷりと子豚のように可愛かったので良しとしよう。

クラドック警部は登場しませんが、原作であったクラドック警部の母親が亡くなった時のエピソードは、代わりに登場したヒューイット警部の子供時代の話として出てきたのでよかった。『鏡は横にひび割れて』では、過去の傷や、受け入れる・忘れることのむずかしさがテーマでもあるのかな。アリーナの話もですが、このほんのちょっと語られる警部の子供時代の話も印象的です。このあたりから話は重くなります。

母が亡くなった時、私はまだ6歳でした。ちょうどお茶の時間で、焼き立てのスコーンが出されたとき、メイドが駆け込んできて、子守にささやいたんです。悲惨な事故が起きて奥様が亡くなった、と。私は泣きもせず喋りもせず、まだ温かいスコーンをただ見つめていました。今でもスコーンを見ると急に悲しみに襲われるんです。ほとんど忘れているのに。

このスコーンをじっと見つめて凍り付いたように固まった子どもの姿を想像すると悲しくなります。大人になった警部の中で、今でもふとした時に子供のままの悲しみが顔をのぞかせるんでしょう。

 ⇒ヒクソン版『鏡は横にひび割れて』視聴感想はこちら
 ⇒原作『鏡は横にひび割れて』 読書感想はこちら
 ⇒アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら



以下ネタバレあり

デンマーク


そしてさらにここで、原作にないアリーナが施設の子供に会いに行くシーンが追加されていてるのが追い打ちをかける。息子を横にし手をつなげない母と、障害のせいか、これまで培った関係がないことによる無関心か、それとも明確な拒絶かは伺い知れませんが、母親にまったく反応を示さない息子。彼が飾ったのか、施設の職員が飾ったのかボビーの部屋に飾られたマリーナの写真、二人は確かに親子なのに、二人の間に親子の絆はない。この埋まらなかった溝は、ただ養子にされたことが恨めしい、と語っていた養子の女性のようにずっと彼の心に巣食ってしまうのでしょうか。



マリーナのようなタイプは幸せにはなれないのでしょう。彼女の不幸は自業自得の部分も多い。自己中というだけでなく、完全な幸せを求めてしまい理想と違うことを不幸と思ってしまう。変えられない現実を受け入れようとしない。それができないマリーナには生きていてもこの先幸せは訪れないし、もし普通の子の母親になれたとしても、子どもにとってはいい母親ではないかもしれない。

それでも、確かにマリーナは嫌な人物ですが、なんとなく幸せになってほしかったと思うのは、その嫌な部分に人間らしさを感じるからなのかもしれません。強い願い、そして自分以外の人たちが普通に叶えている願いが叶わないという現実を受け入れるのはつらいです。理想への拘りを捨てさえすれば幸せになるチャンスは何度もあった。実子や養子たちと幸せになる道もあったはずなのに、そのたびに自分でぶち壊してしまった。それほどまでに強い願いだった。それがかなえられなかったというのは哀れだし、どうにか彼女が現実を受けれいれてくれればよかったなと思う。しかし養子達と実子への責任を放棄し、さらに人を殺してしまったらもうだめです。

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風疹の真相を知ったシーンについては原作の感想で書いたので省略しますが、風疹の話を嬉々として誇らしげに語るヘザー・バドコックと、その肩越しに見える子供を抱いた母(マリア様か?)を描いた絵画、書籍で読んだ時もなんて場面だと思いましたが、実際に映像で見ると残酷です。

この話が心に来るのはおそらく、単に子どもを願う母性の話というだけでなく、忘れたはずのずっと昔の哀しみがふとしたことでよみがえってくるやるせなさだったり、心の底から欲しいと願ったものがかなわない現実を受け入れることができない、そういう自分ではコントロール不能の心に翻弄され動くことのできない人間の様が描かれているからだと思います。


不幸にも過去へのこだわりを捨てられず、未来に目をむけられなかったのね -ジェーン・マープル


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