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【本】『エンド・ハウス殺人事件』(『邪悪の家』)―ニック可愛いよニック、なお話(ポアロ物)

邪悪の家(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


『エンド・ハウス殺人事件』 ☆☆☆☆★ 

クリスティ作品の中で、同じ作品なのに異なる出版元によって違う邦題がつけられたせいで、同じ作品だと気付かずに買ってしまう作品といえばこれw 『邪悪の家』(ハヤカワ文庫)と『エンド・ハウス殺人事件』(新潮文庫)、『雲をつかむ死』と『マダム・ジゼル殺人事件』が2重買いの2トップだと思われます。私は幸いなことに、『エンドハウス殺人事件』に関しては1冊だけですが、『雲をつかむ死』と『マダム・ジゼル殺人事件』は両方もっています。

そしてなぜか『オリエント急行の殺人』と『オリエント急行殺人事件』、『青列車の秘密』と『ブルートレイン殺人事件』、『アクロイド殺し』と『アクロイド殺人事件』、どう考えても同一タイトルとわかるのに両方持っていたりもするw その上どれだか忘れたけど、ハヤカワの全く同じ本を2冊もっているのもある。いや~、出版順に読まず、しかも手持ちを確かめずに適当に買っているとこうなるんですね。まいったまいった。でももう、新潮文庫とかは絶版になっているのかな?検索しても出てこない。なので画像↑もハヤカワ版です。

日比谷花壇

それはともかく『エンド・ハウス殺人事件』はクリスティを読み始めた頃に出版社を気にせずに買ったので、私の持っているのは新潮文庫版です。ハヤカワと新潮文庫の邦題を比べてみると、新潮文庫は何でもかんでも「~殺人事件」で、趣もへったくれもないのですが、この作品に関しては『エンド・ハウス殺人事件』の方がまだマシかな~。『邪悪の家』だと、なんかホラーっぽいんですよね。降霊術なんかでてくるので、ホラー要素もあるにはあるけどたいしてないし(←どっち)。

まずは、あらすじから。

海辺のホテルのテラスで、ヘイスティングズと談笑中のポアロのすぐ傍に弾丸が当たった。そこに現れた女性、岬の上に立つ古ぼけた屋敷エンド・ハウスの所有者ニックは、レガッタの週に友人たちを招いて屋敷で過ごそうと、ロンドンから戻ってきていた。彼女の帽子に弾丸による穴が開いているのを発見したポアロは、ニックの話から彼女の身に危険が迫っていることを察し、誰かを屋敷に呼び寄せ身の安全を図るよう説得する。ニックはそれに従い従妹を呼び寄せるも、エンド・ハウスに友人たちを招いて行われた花火見物の晩に、ニックのショールを羽織っていた従妹が射殺されてしまう。




今回ポアロ達の滞在しているホテルは、セント・ルーのマジェスティック・ホテル。マジェスティック・ホテルというと、どうしても有名なベトナムのホテルが思い浮かぶんですが、そことは無関係なのよね?イギリスにもあるんだろうか。そう言えば、ミス・マープルの『書斎の死体』の舞台もマジェスティック・ホテルという名前(こちらはデーンマス)でしたけど、実在のホテルなんでしょうか。そしていつまでポアロは引退引退言っているんですかね。これまで年代順に読んでいなかったので気にかけなかったのですが、ずいぶん初期に辞める辞める詐欺をしていたんですね。クリスティ、ヘイスティングを早々にアルゼンチンに追っ払うことには成功するも、ポアロを引退させるのは上手くいかず。

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以下がっつりネタばれあり

エンド・ハウス殺人事件


”こいつが犯人かよ!”シリーズとでも言うべきか、盲点になりがちな人を犯人にすることも多いクリスティ、今作では依頼者(厳密にはポアロに押しかけさせているので自分から依頼はしていないけど)が犯人でした。犯人が老いぼれポアロを利用しようとして依頼者として近づいてくる設定は、クリスティの他の長編でも短編(※リンク先は作品名なのでもろネタバレです)でもいくつかありますが、個人的に割と好きな設定・好きな犯人です。何冊もクリスティを読んだ後にこれを読んだ人は、もしかしたらまたかと思うかもしれませんが、私はこの手の設定のクリスティの本の中では多分この作品を最初に読んだので、読み終わって犯人を知って純粋に驚いた記憶があります。

 ・依頼者が犯人
 ・証言をとっぱらってみると実際に起こった事件は1つしかなかった
 ・人違い殺人、と思われた殺人が本当に狙っていた殺人だった

大技(中技?)3連発~という印象です。これを、明るく現代的で気が強くていい加減で天才的な嘘つきという、とても魅力的な女の子がやってのけるわけです。むちゃくちゃですが犯人と犯行がとても似合っているというか。ポアロも徹頭徹尾コケにされ利用されていて、まぁご愁傷様、といった感じです。

むちゃくちゃなだけに、ちょっと無理があるよな、というところも無くはないです。誰の証言も信じないと常々言っているポアロさんが、ニックが狙われているという話を信じたのがまずちょっとご都合主義のような気がします。そうしないと話にならないのでしょうがないですが。ポアロも天才的な嘘つきにはかなわなかったということでしょうか。



そしてマギーは婚約者が死んでも取り乱しもしていないのがちょっと不思議でしたが、あれはあの場のあの時点でラジオでニュースを聞いて知っている人はニックのみ、ということだからなんでしょうかね。一縷の望みをもって平常を装っているという感じでしょうか。それにしてもなんか印象薄すぎるんですよね、この人。

婚約を秘密にしなければならなかったのに、マギーはそこまで親密にも思えないニックに打ち明けていたのもなんか不思議。それならニック以外にも打ち明けている人がいそうな気もする。他に知っている人がいるかもしれない可能性、そして上手いこと頼んでマギーに持ってこさせた手紙に、うまくニック宛と解釈できそうな手紙があるか、シートンの遺言にマギーと特定できる情報が書かれていないか、この辺の不確実さを気にせず犯行に取り掛かるのは大胆どころではないよな、と。

でも、勝手な想像ですが、虚言癖の人は細部まで計算して嘘をつくというより、次から次へとその場に合わせて平然と明るく嘘をつき人を信じ込ませるイメージなので、この辺の大胆さも似合ってると言えば似合っているのかもしれません。嘘をついてもうまくいくと考える度胸と、希望通りに事が運んでいた幸運に恵まれた犯行という感じ。

ある時期は遺言状で遺産を残すぐらいの愛情を感じていた女友達が自分の手に入れられないものを手にしたのを見て、殺人の罪を着せて絞首刑にしてやろうとまで憎んでいく。こういった不安定な女同士の友情には、ここまでメロドラマめいてはいませんが覚えがあります。本で読むとニックには深入りしたくはないなと思いますが、でも多分こういうタイプの人は実際に付き合うと、うまくいっている間はとても楽しいんですよね…。

最後に犯行がばれた後も、あくまで強気でしらをきって演じとおしたのがニックらしい。最後にあれだけ嫉妬したフレディーから餞別にとロケットに仕込んだ薬を貰うのと、それに従って黙ってゆっくりと渡すフレディ―が印象的。



いろいろと引っかかる点はあるものの、ニックの魅力的なキャラクターで押し切ったお話、という感じです。それに対して被害者の影の薄さといったら…。



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