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【本】『東亰異聞』 著:小野不由美 ― 種も仕掛けも、妖怪も

『東亰異聞』  出版:1994年 

クリスティ以外の本の感想を書くのは何か月ぶりでしょう。小野不由美の『東亰異聞』です。目黒雅叙園の百段階段を見に行った時に、なんかそれっぽい雰囲気のある本を持っていこうと思ってこれを選びました。
⇒関連エントリー:百段階段昇った先には何がある…?目黒雅叙園の「和のあかり×百段階段展」へ

小野不由美も好きな作家で、そういえばこのブログでも確か読んでて気持ち悪くなった本として『屍鬼』をちらっと出した記憶があるw この人の本を読んだのは、姉が持っていたピンクの背表紙の講談社X文庫の 『悪霊がいっぱい!?』 だか『悪霊だってヘイキ!』だかのこっぱずかしい名前のティーンズ向け小説を読んだのが始まり。懐かしの講談社X文庫、今もあるのか?なので、ファン歴はクリスティより長い?いやどっちが先だ?ぐらい。でも作品全部は読んでいません。ちなみに↑の悪霊シリーズは、順番ばらばらでたしかオチの本をかなり初めに読んでしまったような。それでもハマッたんだから、結構面白かったのでしょう。読んだのは10年以上前なのであまり記憶がありません。

ティーンズ向けではさほどでもありませんでしたが、大人向けに活動の舞台を移した以降の小野不由美の書く話は、所々のエピソードは結構えぐられたり心に来るのですけど、全体を見ると登場人物誰にも共感できないし、作品の締め方に納得がいかないものが多い。主役級の人びとが異様に自己犠牲にまい進しつつ、そうでない周囲の人に気付いて、人間なんてそんなもんだ…みたいな、ちょっと潔癖すぎるというか中二病というか…。なんか読んでいて飛び蹴りしたくなるようなウザったい性格の人が必ず出てきます、主役級で。

それでも途中までは、読みだしたら最後うお~っと一気読みして現実世界にもどってこれないぐらいの面白さです。で、読み終えた後、え?なんでそういう結論になる?みたいな、最後に釈然としないというかモヤッとしたものが残るという。ぐお~っと奥底に引きずり込まれたと思ったら最後突拍子もない所にぽんと放り出された、みたいなやり場のない読後感がこの人の作品にはあります。なんか本当にファンなのか?と思うような感想ですが。

で、今回の『東亰異聞』はというと、まずはあらすじ―

奠都から29年、瓦斯灯で切り開かれた帝都・東亰の夜にひろまる、見慣れぬ奇妙な見世物の噂。死を読む易者に辻斬り、子どもをさらう人魂売りに、人形遣い。風変わりで奇怪な香具師に交じり、人を突き落す火炎魔人、赤姫の扮装をし、鋭利な詰めで切り裂く闇御前、彼らは人殺しだ ― 帝都日報の記者平川は、この事件を調べるうちに、旧華族の鷹司家に行き当たる。

闇御前に襲われた被害者の一人 常は、亡き先代の本妻・初子から遺言で残された鷹司家本邸に住み、人望も厚く品行方正だか次男、一方常と同日に生まれた長男 直は不良華族で、幼いころから初子に疎まれ家を追い出されていた。そして初子は直の廃嫡の手続きを進めていたところで不審な死を遂げている。この連続殺人事件は、鷹司家のお家騒動によるものか―?

黒衣姿の人形遣いと、自我のある文楽人形の娘が狂言回しとなり、帝都日報の記者の平川と、浅草界隈の大道芸師達の顔、便利屋の万造を探偵役に話は進んでいきます。

有名な『十二国記』シリーズを除いたら(これは未完なので…というか完結する気あるのか?)、多分小野不由美で一番好きな本がこれです。ジャンルはミステリーなのか?いやホラー?そこらへんちょっとよくわかりません。帝都東亰を舞台にした怪奇小説。明治・大正とかね、洋館とかガス灯とか銘仙とかね、そういう時代の匂いのする小説が大好きです。話は二の次で、このアンティークな時代感を目当てに読んでいます…ん?なんかこんなことをクリスティの感想でも書いたようなw 基本的に私は、話の筋よりなにより、日本にしろ外国にしろ1900年前後の時代を感じる話が好きなんでしょうな。




以下がっつりネタばれあり

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人間ではない存在の仕業に見せつつ、実は人間の犯行でした、という話に見せかけながら、やっぱり妖怪居ました、なラスト。実際の犯行部分は人間の仕業だったとはいえ、このラストは現実的な推理小説を期待していた人には受け入れられないかも。私は妖怪もお化けもおっけ~、推理小説だろうと全く推理なんかしないから非現実上等!なので平気ですが。

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しかしやっぱりちょっと犯人2人の動機は納得いきません。後継ぎが2人とも、相手に醜聞ひとつ付けずに家督を渡すために、自分が人殺しになって絶対に跡を継げないようにする…?なにそれ。自殺や失踪じゃ相手が悪く言われる、外聞の悪い女性と付き合ったり自分の評判を下げても無駄だったから最終手段で、ということなんでしょうけど、う~んやっぱり理解できないわ。だからこその夜の者、そんな誰にでも共感できるような心なら魔性に昇華なんかされるか!ということなんでしょうけど。善悪の枠も何もなく一つの思いだけに塗りつぶされた心をしたものが夜の者。常サンはなんか最初から常人ばなれした雰囲気で描かれていて、それも事件が起こってから、魔に両足突っ込んでから話が始まっているのでしょうがないといえばしょうがないですが、まだ普通に悩んでいたころの描写がもっとあればもっと入り込めたかな~。

ペシミスティックというか人間嫌いというか、小野不由美の心情描写って人間の汚い部分は本当に生き生きと描かれる。読んでいて登場人物が嫌ですんごく後味わるい気分になったり、逆に自分の嫌な部分を見せつけられているようで辛くなったり。でも、んで?そういう汚い人間を見た人、そういうのに与しない人々は、じゃ何するのとなった時に、彼らが選ぶ行動がいつも納得できないのよね。なんでその結論、なんでその方法を選ぶかな、みたいな。今回の常・直とか、『屍鬼』の静信とか。今回も、え?なんで殺人?って感じなので、”縁のない人を殺し唯一の兄を死に追いやり、慕った佐吉まで手にかけたのも全て、感謝していた育ての母にずっと欺かれかけられきた呪詛によるものだった” ということに気づき、夜桜の下呆然と涙を流す常の姿に、哀れだなとしんと思う気持ちのすみから、馬っ鹿じゃね~ の\(^0^)/と感じる気持ちがポロッと現れそうになるw でもその気持ちは直視するとこの綺麗なラストが台無しになってしまうから、そっと蓋をして見なかったことにしておくわ。

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そうそう、終わりの方は幻想的です。この人の情景を描写する文章は好きです、綺麗だな、と毎回思う。そして物語の舞台がひっくり返る大どんでん返し。黒子がペラペラっと舞台裏をしゃべってくれます。それに歯ぎしりする美少年の陰陽師、ぐぬぬ。美少年の陰陽師とか、この辺はラノベ出身の作家さんだな、と思わずにいられない。美少年の陰陽師は”悪霊シリーズ”のナル、文楽人形の娘は真砂子、多恵は麻衣、直はぼーさん、あるいは『十二国記』の延王、そんな感じの登場人物。

正直、お家騒動より、この世界の仕掛けの方が面白いです。帝都・ 東亰に跋扈する怪しげな者たちは、人々が開化だ文明だと新しい時代にうかれ、外国にならい追いつけ追い越せとばかりに日本の古き伝統を捨て、合理主義の名のもとに廃仏毀釈を進め国を守ってきたものを迷信と切り捨てた結果できた綻びから、2千年にもわたってこの地に押し込められたわめられてきた魑魅魍魎這い出してきた姿だった。日本と外国との相違点に関し、割と簡単に外国のやり方が正しいことのような、それと異なる日本がおかしいような文脈で語られがちですが、そういったともすると浅はかな猿真似思想が国を傾けた元凶だったというのはわりと納得のいく結論です…

…いく結論ですが、割と唐突ですw お家騒動の謎解き終わったと思ったら国家の成り立ちまで話が進んで、妖怪出てきて東亰 水没、完。いやね、本の出だしから、この東亰の地は抗う何者かの力を平定して都となったことを示唆してはいたけれども。いたけれども!あ、沈んじゃった☆みたいな。しかし水没後の情景は好きです。水の都ベニスみたいですね、と海外旅行ブログらしいことを言ってみる。水と霧に沈む薄闇の中に妖が跋扈する幻想的な帝都・東亰で、それでも人々はそれを受けいれて生活していくのが逞しいですね。実際は結構悪臭がしそうですがw

なんか、どこが一番好きな話だよ、とう感想しかかいてない、悪口しか書いていないですがそれでも好きです。とにかくひっかかる部分はそこかしこにあれど、読みだしたら最後物語の中に引きずり込む吸引力の変わらない唯一つのダイソン。何言ってんだ?まぁいいや。もう何回読んだんだかわからないぐらい繰り返し読んでいます。好きなだけに、いろんなところがなんか惜しい…!そんな感じのお話。…あれ、好きだから気合入れて時間かけて感想書こうと思ったはずのに、書きあがったらこんなん。好きな話程気合が空回りするよね。



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