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【本】『エッジウェア卿殺人事件』(エッジウェア卿の死) ―女たるもの喪服のフィッティングもしなければ…!

『エッジウェア卿殺人事件』☆☆☆☆★

以前クリスティの書く「あたくし~でしてよ」系の頭の軽い金髪美女が好きという話をちらっと書いたのですが、その最たる人物がこれ、ジェーン・ウィルキンソンです。いいですね~。特に鏡の前でウキウキと喪服のフィッティングをしているところが大好きです。良識の固まりのようなヘイスティングズも、この姿には目を奪われていましたね。喪服ですよ喪服。女たるもの、夫の葬式の場でさえ自分を美しく見せることに余念無い様は、見習わなければなりませんね!いや、それはどうだろうか!


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なんか妙なテンションですが、この話好きなのでつい浮かれてしまいます。何度も何度も読んでいる話。でもこの話、地味なんでしょうか?世間ではあまり話題に上らないので、ちょっと残念です。なお私は新潮文庫の方で読んでいるので『エッジウェア卿殺人事件』と書いていますが、ハヤカワの方は『エッジウェア卿の死』です。たいして違いませんね。ちなみにハヤカワ訳の方は読んでいません。

ジェーン・ウィルキンソンの他にも、出てくる女性陣で好きなキャラが多いです。やはりアガサ・クリスティ作品は、女性が生き生きと描かれているととても面白い。帽子店店主のジェニー・ドライヴァーが、友人の訃報をもたらした探偵と向かい合う前に、バババッとすごい勢いで鼻におしろいをはたくところとか。女性の戦闘準備という感じで好きです。



ジェーンにしろジェニーにしろ、人の死にも事務的に対処していく現実的なところと、有事(w)の際はまず外見を整えて臨むというのがいかにも女性らしい。そういえばポアロの他の話で、空襲で逃げまどう際に足のケガよりもお気に入りのストッキングが破けたと言って泣いていた女性のエピソードがあった気がしますが、こういうのにはなんとなく共感してしまう。そんな時に外見を気にするのかよ!という思いのある一方、それはそれ、これはこれで、なぜか自分のストッキングの伝線やら服の毛玉やら鼻のテカリやらマスカラのにじみを冷静に観察していたり。いや、そんな時にそんなこと気にしている時点で冷静ではないのかもしれませんが。

大変なことが起こった際に、普段の生活の延長上にある”身だしなみを整える”という行動で自分を取り戻し冷静に対処しようとしているのだ~、と聞こえの良い解釈をすることもできますが、それよりもそんな時でも真っ先に気になるほど、女性の美に対する執着はすさまじい、と考える方が私は好きですw



しかしこういう女性は、女性に夢見すぎな我らがヘイスティングズの好みではないようで。友人の訃報に泣きもせずにてきぱきと対応するジェニーを「情がこわい」と評したヘイスティングズは、こういう時はとりあえず気を失っておいて、起きてから泣き崩れるような女性が好みなのでしょう。しかしヘイスティングズのしっかり者の奥さんは、そういう演技を楽しみつつも鼻で笑っていそうな気もしますがw

怖い女性と言えば、マートン侯爵未亡人。ちょっとの登場ですが、この方も結構インパクトあります。人に指図することになれた独裁的で傲慢な女性も、ポアロにかかれば ”良きママ” とな。良きママの味方ポアロ、確かにポアロはわりといろんな作品で ”母の心” に好意的な感じです。マートン侯爵未亡人 vs ジェーン・ウィルキンソン、どちらも癖のある女性で、嫁姑対決を見てみたい様な見てみたくないような。

そう言えばあらすじを書いていなかったわ。

物まねを得意とする女優カーロッタ・アダムズの舞台を見ていたポアロは、おりしも物まねをされていた美人女優のジェーン・ウィルキンソンより、夫エッジウェア卿に離婚を承諾させて欲しいと依頼される。断るポアロだったが、ジェーンはさもないとタクシーで乗り付けてこの手で夫をやっつけてしまう、と高らかに宣言。

ポアロはエッジウェア卿の元へ向かうも、そこで告げられたのはすでに離婚承諾の手紙をジェーンに送っているという返答だった。これでマートン侯爵と再婚できると喜ぶジェーン。しかしその夜、エッジウェア卿は妻を名乗る女に殺害された。


ポアロはまたまたベストについた油シミを抜こうとしていますが(潔癖症のくせになんかしょっちゅうシミつけてる印象あるんだけど、気のせい?いや、潔癖症だからほとんど見えないようなシミが気になるのか?)、ジョージはどこいったジョージは。主(あるじ)に言われる前に小さなシミも完璧に処置しておく有能な執事が出てこない代わりに、のこのことヘイスティングズが登場しています。おーまいがー。お前は南米にいるんじゃなかったのか。

 ⇒アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら


以下がっつりネタばれあり

ピルケース


クリスティ作品を読んでいてよくあるのですが、読み終わってから考えるとなんで気づかなかったんだろうと思うようなトリックなのに、読んでいる最中はころっと騙されてしまうのはなぜなのか。この話も、カーロッタ・アダムズが行ったのは、エッジウェア卿の屋敷ではなく晩餐会会場の方だった、というのがわかれば多分犯人はすぐわかるのでしょう。エッジウェア卿の屋敷と思っていると、ジェーンに罪を被せるために利用された=犯人は別の人だと思い込んでしまいますが、晩餐会会場の方なら、ジェーンのアリバイ作りに利用された=犯人はジェーン、と思いつくはず。



カーロッタはジェーンの替え玉、というところまで明らかになっているのだから、向かったのはエッジウェア卿の屋敷ではなく晩餐会会場の可能性もあるということまで頭に浮かんでもよさそうなものなのに、全く浮かばないのが我ながら不思議です。普通の人ならわかったのかな、このトリックは。私は多分、晩餐会会場にいた人達がほぼジェーンと初対面という情報を読み過ごしてしまったのが敗因でしょう。晩餐会とやらに招くような仲なら、ある程度交流のある人達なんではないのか?と晩餐会に縁のない私は思ってしまいw

縁がないから分りづらい、という点では、動機もちょっと日本人には分りづらいかもしれません。カトリックなので離婚が不可、私は中高とカトリックの学校に通っていましたが、それでもそういえば離婚ダメだったっけ程度の認識なので、カトリックに縁のない人はさらに思いつかないかも…それとも私の頭に問題があるだけか。その可能性もあり。

私はころっと騙されましたが、こんな感じなのでこの話はもしかしたら世間ではわかりやすいトリックに分類されているのかもしれません。でもこの話の面白味は、トリックやら動機よりもとにかく犯人の魅力につきます。お近づきにはなりたくありませんが、金髪のスター女優ならこうあって欲しい、という期待に応える人物像。


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   _ (m) _ピコーン
      |ミ|
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     ('A`)
     ノヽノヽ
       くく
そうだ!物まねでアリバイ作ればいいんだ!

…え、マジで?「ぼくのかんがえるさいきょーのありばい」的なやつ、ホントにやっちゃうの?と突っ込みを入れたくなるような方法をほんとにやっちゃう。普通の人なら、思いついても ”いやいやいやいやいや、これは無いな"と却下するトンデモ案。んでその夜にっこり笑って高らかに夫殺す宣言をして、次の日サクっと殺しちゃう。んな馬鹿なことする奴いるかよ、という世間の認識を逆手にとった犯行。ジェーンは我儘で単純ですけど、でも世間で思われているほどは馬鹿ではない。

処世術として自分を実物よりバカっぽく見せる女性は、『ホロー荘の殺人』や『葬儀を終えて』とかでも出てきました。この人たちは、自分より下と思われる人へ見せる世間の油断を観察し利用する狡猾な頭脳を持っているので、読んでいてヒヤッとするものを感じます。嫌な言い方ですが、おバカだと思っていたら馬鹿にされていた、みたいな。

ポアロも今回もまたまた犯人に利用されてコケにされています。単純な子供っぽい頭脳のみせる閃きには、ポアロも苦戦したようで。そうだ!夫殺すって言っておこう!そうだ!適当にDってイニシャル掘っておこう!とノリノリの犯行に放浪されまくっていますね。そして、私、あったま良い~と浮かれたところに真実を突きつけられて崩れてしまった犯人、惜しかったね…と思わず言いたくなってしまうような、不思議な魅力のある人物像で。

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クリスティ作品の中で一番好きな犯人を上げるとすると、私はこのジェーン・ウィルキンソンかもしれません。最後の手紙一文一文がいいです。追伸の、「私は、マダム・タッソーに陳列されるとお思いになりますか」の悪趣味さはさすがスポットライトを浴び続けた女優という感じですが、「私は前よりずっと青ざめて、痩せて見えますけど、なぜかそれが、私に似合うのです」とか最高ですね。牢屋で鏡を真剣にのぞき込んでいる姿が目に浮かびます。手紙の中で一番好きな文章はこれ↓

あなたを快く許します ―ジェーン・ウィルキンソン



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