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【ドラマ】名探偵ポワロ『ミューズ街の殺人』―殺したいほど憎いけど

『ミューズ街の殺人』

ミューズ街の殺人、原作は短編集『死人の鏡』収録の「厩舎街の殺人」です。私はあまりクリスティの短編は好きではなく、そして登場人物の地位やら事件の規模的な意味で小さな事件よりは大きな事件の方が好きなのですが、この短編は珍しく好きです。なので楽しみに見ました

…というかこれ見たことあったわ。名探偵ポワロはあんまり長いこと放送していたもので、そして毎回いつの間にか放送・再放送がされていたりで、見たのも順不同だし何を見てどれを見ていないんだかもうごっちゃです。見たはずのものでも記憶になかったり。でもこれは見始めてすぐ気が付きました。同居人ジェーンのけったいな髪型で、あ、これ見覚えある!とw 芸術的なサザエさんというか。ほんと1990年前後は日本だけでなく世界でもファッションの暗黒期ですな。

あらすじ
銃声も紛れそうなほどの花火のあがるガイ・フォークス・デイの夜、一人の女性が死んでいた。

女性は婚約中のアレン夫人。その夜同居人の女性は外出しており、知人の男性ユースタス少佐が家に訪れたのが目撃されている。銃痕は左側頭部、拳銃を握っていたのも左手で一見自殺のように見えたが、指紋、その他にに不審な点があり―




舞台は厩舎街といえどお馬さんは一切出てこず。ガイ・フォークス・デイは11月5日、ついこの間ですね。今回も事件外のレギュラー陣の名言が楽しいです。

ジャップ警部 「家内は人が楽しんでいるのを見るのが嫌いなんです。」 ←なんで結婚したの?www

ポワロ 「エルキュール・ポワロは歯医者に行く必要はありません。私の歯は完全だ。それをいじるのは冒涜です。」

ポワロ 「大事な予定(←歯医者)をいくつかキャンセルしました」

ミス・レモン&ヘイスティングズ 「襟の硬さ、問題、主人激怒」

これらは原作になくてドラマオリジナルだったような。いま原作が手元にないので確かではないですが。ちなみにポアロが歯医者の治療台に乗せられて子羊のように治療を受ける場面から始まる話は、『愛国殺人』だったっけか。ポアロは船に酔って怯えたりラクダに乗せられて悲鳴を上げたり、わりと小心者ですよね。

以下ネタばれあり

花火



真相は、アレン夫人殺人事件ではなく、アレン夫人を自殺に追い込んだユースタス少佐の現在進行形殺人事件でした。もしある人物を殺したいと思うほど憎んでいて、上手く殺せる機会と頭に恵まれたとしても、実際に自分自身で手を下せるかとなると、人を殺すことへの罪の意識や血や死体を忌避する心があり、そこを乗り越えて殺すのは大変です。頭の中で強く死を思い描いていても、実際の死と向き合うにはかなり抵抗がある、と思う、いや知らんけど。 

しかしこれを他人がやってくれちゃうとなると、大分壁が低くなる。自分で殺さずとも、殺人犯に仕立て上げれば、あとは法が殺してくれる。自分の手を汚さずに済む。上手い方法ですね。しかも実際に友人を死に追いやったのはこいつで、殺人犯みたいなものだし!と罪悪感も感じずにすむ事案。しかしこれも頭の中で思っていた段階までで、実際に死刑が現実として見えてくると耐えきれなくなり自白。なんとなく、ジェーンはポワロにバレずとも、最終的には嘘の証言をしたことを自白したのではないかと思います。勝手な想像ですが。実体のある死にはそれだけ人は抵抗を感じるものなのでしょう。生きているとだんだん死に触れる機会が多くなってくるわけですが、生々しい死に触れれば触れるほど、どんな事情であれこの抵抗を乗り越えて本当に殺人を犯した人への嫌悪感が増してくる。

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ちなみに、似たように大事な人を死に追いやった犯人に復讐する話がクリスティの他の作品にありますが、こちらは自殺に追い込んだんじゃなくて本当に殺した殺人犯を、死刑でなく私刑で直接手にかける話です。殺人犯が法の裁きをかいくぐり死刑を免れたので、私刑を加えたのです。そして、「抵抗を乗り越えて本当に殺人を犯した人への嫌悪感が増す」とか言いながらこの話は私のとても好きな話でもあります、とくに原作よりドラマ版が。こちらとミューズ街では事件の深刻度が違いますが、人を殺すことは受け入れられないと言いながら人を殺した人は殺されてしまえと願う、このへんの矛盾は我ながらいかがなものかと思います…思いますがそれでも殺人犯が殺されたのは自業自得と思ってしまう。死に対してなかなか冷静な態度をとるのは難しいですね。ちなみに普段は死刑賛成、私刑反対です。

後者の話が私刑であるのに受け入れられるのは、自分ではこういうことはできないし現実世界でも無理だろうから、話の中だけでも殺人犯に天罰を!的な感じかもしれないです。現実にこういう人たちがいたら、同情はしても結局この人たちも殺人犯であるという嫌悪感の方が先にたって、味方になる気は起きなそう。ここでも、頭の中と、現実の死との間には大きな壁がありそうです。

ポアロに「一人の人間を本当に抹殺したいのか」と問い詰められ、ジェーンが「私にはできません」と言ったところではほっとしました。人を自殺に追い込むまでに強請るようなユースタス少佐には、これぐらいやったところでばちはあたらないさ。頭が良く友人思いの女性、最後毅然とした態度で立ち去るジェーンが良いです。短編ながらとても印象にのこる犯人です。


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