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【ドラマ】名探偵ポワロ『スズメバチの巣』―ポワロは犯罪を防げるか


『スズメバチの巣』

原作は『教会で死んだ男』収録の短編。原作の感想でも書きましたが、この話はとても好きです。

「あの頭の恰好は一目でわかる。」

頭の恰好ってw そんなこと言われるのはきっとポワロさんだけでしょう。でもほんとあんなふうにツルッとした卵型は、遠くからてっぺんだけ見かけただけでもわかるかもw あらすじは今回はNHKオンラインから引用―

夏祭りの会場で、ポワロは旧友の息子ハリスンと婚約者のモリーに出会う。会場には彫刻家のクロードもいた。彼はモリーとの婚約を解消し、今は良き友人としてつきあっているという。その後、モリーの車が、ブレーキがきかず立木に衝突する事故がおきる。そのブレーキはハリスンが直していた。さらに数日後、ハリスンの家に招かれたポワロは、庭でスズメバチに刺されてしまう。ハリスンは巣の始末をクロードに依頼していた。


スズメバチに刺された時ってあんなもんでしたっけ?何回か刺されるとやばいと思ったんだけど。日本のスズメバチと向うのは違うのか。ちょちょっとヨードチンキ塗っておきゃOKみたいな。なんかヨードチンキって響きからして適当さの漂う薬よね、ヨードチンキ…。そう言えば実物を見たことがないわ。

お見舞い中にヘイスティングズが間断なく食べ続けていたのは、お見舞いに持って行ったチョコレートか…?


アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
⇒原作収録短編集の感想はこちら:【本】『教会で死んだ男』―人生の終わりに何を願うか(アガサ・クリスティ著)

以下、ネタバレあり

ゲティ美術館 ロサンゼルス LA


ポワロの扱った事件の中で、数少ないこれから起きる犯罪を防いだ話です。

殺人の罪を着せて絞首刑にする、というのは他の短編(←ネタバレ注意)でもあり、そちらもポワロによって防がれています。どちらも復讐のために、大切な人を奪った相手を殺人犯に仕立て上げる、切ない後味の残る話です。そして、あちらの話では犯人は殺さないことを選び、こちらの話では防がれたことに安どの表情を見せる。本質的には殺人者ではなく、殺人を犯そうとする自分との葛藤があり、止めてもらった時は感謝すらするのに、もし止める手がなかったら殺人者になっていたという。普通の人が、人を殺そうとする誘惑にかられてついボーダーを超えてしまう、そういった魔がさす脆さと、殺意の奥底にある良心の存在にやるせないものを感じる話。

特にこちらの『スズメバチの巣』は、自分の命を懸けてまで絞首刑に追い込もうとした計画が全てパーになった時に見せた表情が、笑顔だったというのが印象に残ります。人殺しにまで身を落とし、さらに自分の命まで懸けた計画が失敗に終わり、間抜けな死に損のまま今まさに死んでいくのだ…と思っていたら、お前の飲んだのは洗濯ソーダだ、の種明かし。あの笑みは殺人と自殺が失敗に終わったことへの安堵の笑みか、それとも洗濯ソーダなんかを飲んで大真面目に暗黒面に立っていた自分へ滑稽さを感じたのか。

しんみりとした切なさを感じるラストで好きなのですが、原作版の方がさらに好きです。原作では、話はハリソンの庭だけで進行。実際に登場するのはほぼポワロとハリソンの2人のみ。全てを失ったハリソンが、物憂い夏の夜に自宅の美しい庭で殺意を抱え込んで一人己の死を待つ情景を切り取ったお話です。全てを暴かれ、呻き、何のために来たのかと問うハリソンに「あなたは殺人犯ではない」というポワロ。私がやってきた来たこと、嬉しいですか?それとも無念ですか?の問いに、しばらくの沈黙のうちに、毅然と答えた言葉で終わります。「来てくださったこと、本当に感謝します。ほんとうに、感謝します。」

でも、あの庭で、時折訪ねてくる友と穏やかな最後の数か月を過ごす情景が目に浮かぶドラマ版のラストも、爽やかな余韻があって良いですね。

 原作感想⇒【本】『教会で死んだ男』―人生の終わりに何を願うか(アガサ・クリスティ著)

来週は「マースドン荘の惨劇」です。この話、あまり原作も印象に残ってないわ…。


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