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【ドラマ】名探偵ポワロ『二重の手がかり』 ― なんぞこのメロドラマは…


『二重の手がかり』

原作は、『教会で死んだ男』収録の短編。 『二重の罪』という紛らわしい題名の短編もありますが、そちらはバスに乗って旅行行ったらアンティークの細密画の盗難事件に巻き込まれる話。こちらのあらすじは、NHKオンラインより引用↓
 
貴族をねらった宝石盗難事件。ポワロのほろ苦いロマンスが、事件を解決する!

貴族の屋敷で連続して起きた宝石盗難事件。ジャップ警部は解決の糸口がつかめず落ちこむ。その後、ある宝石コレクターの館で行われたパーティーの最中に、またも宝石が盗まれる。現場には、男物の手袋とシガレットケースが残されていた。調査を始めるポワロだったが、事件現場で出会った伯爵夫人にすっかり夢中。ヘイスティングスとミス・レモンが事件解決に乗り出す。


春の訪れは、ヘイスティングズの暴走運転と共に。異様に寒がりのポワロが冬の方が良いと言うなんて、よっぽどヘイスティングスの運転がお気に召さないようです。

しょぼくれジャップ警部が自身のクビという一大事にポワロに助けを求めに行くところは、ポワロへの信頼が見られてまあなんて微笑ましい。しかし今回ポワロさんはそれどころではなく。

アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
⇒原作収録短編集の感想はこちら:【本】『教会で死んだ男』―人生の終わりに何を願うか(アガサ・クリスティ著)

以下ネタバレ

アムステルダム国立美術館


二重の手がかりの内、手袋の方は犯人がわざと置いた手がかり、シガレットケースの方はホントに犯人の落とし物。しかし金庫の大きさに対して手袋の割合があまりに大きすぎるw あれで「犯人が置き忘れたんですな…!」は無いわ。さすがにこれはちょっとねー、今作は警察がバカっぽく描かれすぎていて気になりました。もっと大きい金庫で奥が暗い感じにすれば暗闇に紛れて置き忘れたと見せかけられたのに…、と犯罪関係の感想も一応書いては見たものの、今作は割と犯罪どうでもいいです。とにかくロサコフ伯爵夫人、ポワロの恋、これがメイン。

正直なところ、原作でロサコフ伯爵夫人が出てくる話は、設定が大げさだったり「ぼくのかんがえるさいきょーの」的話になりがちで(『ビッグ4』とか)苦手なものばかりで、ロサコフ伯爵夫人も存在自体が胡散臭く好きではないのでそんなにこだわりはない。しかし常に真顔に悲壮感が張り付いているドラマ版のロサコフ伯爵夫人は、あまりにイメージと違~う!ドラマだとなんか儚げで幸薄い、いわゆる「未亡人」っぽい感じだけれど、原作ではもっと女傑とか女主人な感じの女性。後に再登場する『ヘラクレスの冒険』では、派手で豊満な体をした大女と描かれている。ロシアの女性なのでもっと恰幅のいい、でも太ってはいない堂々としたスタイルで、カラっと嘘をついて、欲しいもの盗って何が悪いのよホホホ系で、陰より陽、たれ目よりツリ目なイメージをしていたので、ドラマのロサコフ伯爵夫人は大分がっかりでした。しかし頭の良いシックで洗練されたセクシー淑女好きのポワロさんが好みそうなのは、実はこちらでもある。…あるけれどもあまりにジメッとしすぎておる。

他作品も含めた原作ロサコフ伯爵夫人は、とにかく宝石が好きで好きで盗ってるという感じなのですが、なんかこっちは生活のためなの?と思ってしまうほどの悲壮感。そんな嫌なら泥棒やめればいいのに…、それともあれは別に悲壮感でもなんでもなくて素の顔で、あの表情で宝石ゲッチュウハウハ、とか思ってんだろうか。

ドラマは、最終シリーズでドラマ化された「ヘラクレスの難業」に出てくるロサコフ伯爵夫人の方が好きです。この作品とは違う女優さんが演じていて、そちらも原作とはイメージ違うし話も大幅に変更されているけど、それはそれで良かった。

 ⇒関連エントリー:【ドラマ】『ヘラクレスの難業』(アガサ・クリスティ原作)―『カーテン』へ続く名探偵ポワロの苦悩

なんかロサコフ伯爵夫人のイメージを変えたせいか、話もだいぶしめっぽいメロドラマ風味。ポアロが思慕から犯人を見逃したことになっていますが、これはドラマオリジナル。原作だと、事件をポアロの元に持ってきたのはジャップ警部ではなくて館の主人。パーティー招待客は個人的な友人ばかり、面目もあるので表ざたにしたくないということで初めから犯人確保は目的ではなく、宝石を取り戻すのがメイン。

現場に残された2つの手がかりから知人のパーカーに罪がかぶせられそうになったのを察したロサコフ伯爵夫人が、ポアロの所にバーンと乗り込み、そうはさせないと宣言(自分で罪被せておきながらw)。その翌日、今度はポアロがロサコフ伯爵夫人の所に乗り込み、単刀直入に、盗まれた宝石を渡してくれればよいと告げる。じっと煙草を吸っていた夫人は、大笑いして宝石の入ったハンドバッグを渡し、「もう二度と会うことはご免だわ」、でお別れ。土壇場に追い込まれても虚勢を張らず、状況を的確に判断する彼女の頭脳と度胸にポワロは感服する、というお話。この「二重の手がかり」の時点ではあまり恋愛感情めいた描写はないんですよね。2人の傑物同士の応酬と言う感じでからっとした後味。

ちなみに雇い主への遠慮や思いやりのカケラもない原作版ミス・レモンは、後の『ヘラクレスの冒険』でロサコフ伯爵夫人に赤いバラをウキウキと贈るポアロを見て、「あの年で!まさか…」と酷いことを思っているw 事件の本当の事情に気づいたのかポワロを気遣う様子を見せていた今作ドラマ版ミス・レモンとは大違いだわ。

銃に撃たれて負傷した風に見えたヘイスティングズはコケて額擦りむいただけかよとか、ロサコフ伯爵夫人は「これお役に立ちます?」で盗品持ち歩いてるんかいとか、日本人のピアニスト ナゴーラとか、なんかいろいろ他にも気になる点はあったけれども、ガッツポーズでネックレスを掲げてわっしわっしと歩くジャップ警部が嬉しそうだったからいいや。良かったね、首にならなくて。

来週は「スペイン櫃(ひつ)の秘密」です。


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