旅行鞄にクリスティ

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【本】『マダム・ジゼル殺人事件(雲をつかむ死)』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―吹き矢で殺人しちゃうゾ☆

『マダム・ジゼル殺人事件』(=『雲をつかむ死』)☆☆☆★★

新潮社から出ている(もう絶版かも)『マダム・ジゼル殺人事件』は、クリスティ文庫で『雲をつかむ死』として出版されている話と同じです。以前ブログで、クリスティ作品の中で同じ話なのに出版元によって題名が異なるせいで2重買いしてしまう話の2トップと書いたうちの一つで、ちなみにもう一つは 『邪悪の家』(ハヤカワ文庫)と『エンド・ハウス殺人事件』(新潮文庫)。この作品の原題は「Death in the Clouds」で、in the cloudsは非現実的なとか架空的なという意味があるので「現実離れした死」と言う意味と、言葉通り大空での死の2重の意味のかかった題名のようです。となると、ハヤカワ版の『雲をつかむ死』の邦題の方が雰囲気は出ていますね。

原住民の吹き矢で人殺しちゃうゾ☆しかも飛行機の中でだZO☆という、「え、冗談でしょ?」みたいなネタを使ってしまうある意味とてもクリスティらしい作品。B級映画か。そうそう、私の読んでいるのは昔出版されたバージョンなので「原住民」表記ですが、リニューアル後のクリスティ文庫なんかではどうなっているんでしょうね?「先住民族」とかになっているんでしょうか。私は「原住民」で通しますが。

それはさておき、取りあえず☆3つ付けたものの、話としては2つが妥当かもしれません。でも個人的に好きな要素が多いので3つにしました。好きな要素とは、まずは旅!空での殺人ということはもちろん旅行物です。そして私がクリスティを読む大きな目的の一つに、昔のイギリスお屋敷の調度品とか持ち物とかドレスの描写があります。その2つが同時に味わえる乗客の「旅の手荷物一覧」にはもうよだれが。あのページだけで小一時間楽しめるわ。

イギリス⇔フランス間で距離が短いというのもあるのでしょうが、海外旅行で機内持ち込みの手荷物に入れる持ち物が意外とみんな少ないですね。ページの都合上いろいろ省かれているのだとは思いますが。パスポートは書いてありませんが、どっかに預けてるのですかね?そしてこの時代はまだカメラを持ち歩く人はいなかったのね。ちなみにこのブログは海外旅行ブログ(だった)なので、旅行時の持ち物一覧もアップしているのですが(⇒女性用海外旅行持ち物リスト&要チェック項目)、比較すると自分の機内持ち込み手荷物一覧が実用一辺倒すぎて優雅さの違いに泣ける。コートに絵葉書入っていたりするのがイギリスらしいし、筆記用具もタダで貰った安いボールペンなんかじゃなくて万年筆だし(たとえインクが漏れていようとも!)、女性が細身のシガレットホルダーを持っているのも素敵。そしてホーベリー伯爵夫人がマニキュアセットまで機内に持ち込んでいるのがさすが元コーラスガール、と思ったら生え抜きの貴族ヴィニーシア・カーも持っていたので、これは身だしなみの一種なんですかね。飛行機でちょっとぐらい爪がささくれてもマニキュアが剥げても気にすんなと思ってしまう私は女性としてダメなのか。それにしても、赤いモロッコ皮の化粧ケースに入った純金製のマニキュアセット、想像するだけでうっとり。

素敵と言えば、冒頭のジェイン・グレイとノーマン・ゲイルの出会いの場面もなかなか。カジノで隣の番号にかけた男性が、自分の当たった札を「あなたのですよ」とさらりと譲り、そして誘うことなく立ち去る。私もカジノの当たりをあんな風にスマートにごっそりくれる人がいたらホイホイついて行きたいです。そしてジェインの美容室の友人の「歯医者ですって!白い歯をひらめかしてにんまり笑う男なんじゃない?」を読んでから、このにっこり笑って去っていく姿を歯磨き粉のCMのようなやたら白い歯で想像してしまって笑いが出るわw ノーマンは出会ってすぐに「結婚しよう!」と頭に花咲いてる系の浮かれポンチっぷりですが、私はジェインとノーマンの二人の素人探偵が結構気に入っています。

⇒ドラマ版感想はこちら:【ドラマ】名探偵ポワロ『雲をつかむ死』 ―謎の英仏警察対決
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら


以下ネタバレあり

バンコク 飛行機


なので犯人とわかってひえ~!と思いました。またしても魅力的な男性=犯人の図。そして根っからの殺人者のようで。マダム・ジゼルと、その娘で自分の妻、さらにこの事件前にはカナダで1人、計3名を殺害。ただなんかちょっと根っからの殺人者というところは納得できないんですよね。まずはそもそもなんでマダム・ジゼルを殺す必要があったのか。今現在お金に困っているわけでも無く、そのうちマダム・ジゼルが年取って死ねば安全に遺産が手に入ったわけで。殺害を決めた時はまだジェインに出会っていなかったわけかだら早くジェインと結婚するため、というわけでも無いし。マダム・ジゼルを殺すには、根っからの殺人者で邪魔になったらすぐ殺すという犯人像にしないとつじつまが合わなかったから、という後付け感が感じられるような。

とか考えながらも、スチュワード姿とは盲点だわ~犯人全然わからなかったしぃ~旅行物で面白かった~と初読時は結構満足して読み終えたものの、そのままあとがき(新潮社版)に突入してそこで指摘されている犯行の不備を読んで「…。」となりました。個人的には全然気が付かなかったので読まなきゃそれなりに満足できたのに…と思ったりもしたので、読みたくない人もいるかも、と一応間をあけて引用します。








犯人は犯行の際に着た上着を誰にも見咎められずにどうやってしまいこむことができたのかということ。カバンとか、それに準ずるものを持って席を立てば当然目についたはずだと思うのだが
引用元:『マダム・ジゼル殺人事件』 解説(中村妙子)

確かにな~。読み返しても、ノーマンが洗面所に席を立った時何かを持っていたとも持っていなかったとも書いてはいないようなのですが、もし男性がそんな大きな鞄持ってトイレに行ったら目立つし(ノーマンの持ち物一覧だとアタッシュケースに入ってる)、後方の荷物置き場には行っていないと言っているからずっと席に持っていたってことになって、なんでそんなもんを手元に?となんか不自然だし。絶対おかしい!というわけでもないけど、なんかひっかかる描写です。なのでこのへんドラマではどう処理しているのか、上手くごまかしているのか、まんまアタッシュケース持ってトイレにいっているのか、楽しみです。

それと、一番ひっかかるのがなんでわざわざ飛行機の中で殺すか?という点。私だったらそんな人数が非常に絞られてしまう方法ではやらないわ。自分も乗り合わせて、さらには絶対に疑われる遺産相続者の奥さんまで乗り合わせることになったら、絶対に中止するし。いくら「スチュワードが歩き回っていても乗客は気にしない」という心理的盲点を使えば良いとはいえ、いやいや乗客は気にしなくても本物のスチュワードに見られたら終わりだよね?同僚に見覚えない男がスチュワードやってたらいくら何でも気が付くよね?そんなので上手くいく確率にかけるぐらいだったら、私なら夜道つけていって刺すか、隙がないなら家に変装して行って刺す(飛行機でスチュワードに変装するよりは上手くいくだろう)方法を選ぶわ…とどうにか上手くマダム・ジゼルを殺す方法を一生懸命考えている自分がいる。

読めば読むほど、飛行機内で吹き矢筒を使うと見せかけた殺人を行うにはどういうストーリーにすればいいか、という設定ありきで考えられた話のような気がしてしまって、話の筋としてはう~んと思ってしまうのですが、そもそも私はクリスティであまりミステリー要素は重要視していないので、この話も納得できないながらその他の要素目当てに、気に入って何度も繰り返し読んでいます。なんだかんだで旅行物は楽しい。ただ人にはこの作品は薦めないですね。

殺した人数:3人

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