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【ドラマ】名探偵ポワロ『 なぞの遺言書』 ― 教訓:ランチの席で遺言状の書き換えを口にしてはいけない

『 なぞの遺言書』

原作は『ポアロ登場』に収録の同名の短編…なんですが、全然違う話になっとる!最初何の話だか全然分からなかったわ。原作だと隠し子もいないし安楽死の医者もいないしそもそも事件すらおこりません。それだと尺が持たないからなんでしょうが、勝ち気で強情で仲の良い叔父と姪の知恵比べという微笑ましいこの話が、こんな物騒な話になってしまうとは…。と言いつつ、原作はわりとそれだけ?という話なので、ドラマ化にあたって大改編は妥当なのでしょう。女性の学問近辺の部分と、遺言状にまつわる話、という点だけ一緒であとは全く別物です。

あらすじはNHKオンラインより引用

ある富豪が遺言書を作り直すことになった直後に急死。古い遺言書もなくなっていた。

ポワロは、友人アンドルーの邸に招待される。妻子のいない彼はオーストラリアで財をなし、その時の友人の娘バイオレットを養育していた。その夜、ポワロはアンドルーから遺言執行人になって欲しいと頼まれる。10年前の遺言書を作り直し、全財産をバイオレットに残したいと打ち明けられた。だが翌朝、敷地内の離れでアンドルーが死体となって見つかる。


ポワロとアンドルーは歯医者仲間。歯医者で一緒に親知らずを抜かれるという地獄を共に生き抜いた戦友。やたら歯医者ネタの多いドラマシリーズですが、制作陣に歯医者にトラウマがある人が含まれているのでしょうか。私は原作の『愛国殺人』の感想時も書きましたが、歯医者が子供のころから大好きなのでポワロの気持ちはちっともわかりません。

ちなみに、原作のあらすじはこんな感じ。

農業で莫大な財産を築き、机上の学問、特に女性が学問を受けることに反対していたアンドルーは、賢く自立した女性である姪に変わった遺言状を残して病気で亡くなる。「死後1年間は家と家具は好きにしていい、その間に利発な姪は頭の良いことを証明して見せるであろう。その期間が過ぎたら、私の方が頭の良いことになるので、財産は全て慈善団体に寄付する。」これは叔父からの挑戦状で、第2の遺言状が存在するのだと見たヴァイオレットは、ポワロに助けを求める。


頑固で偏屈で愛すべきじじいの書いた謎かけ遺言に、気が強く愛情深く賢い姪が挑む!という14ページほどの短い話です。

アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
⇒原作収録短編集の感想:【本】『ポアロ登場』― 割とすっとんきょうなポアロです

以下ネタバレ

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さて、原作はさておきドラマの方は…なんだか人物関係がよくわからない、とくに親子関係が。登場人物一覧が欲しい。私は最後までピーターの母親とロバートの母親の区別がついていなかったので、この犯人誰?誰の母親?誰の夫状態。何回か見直したけどいまいちよく把握できているか自信がないわ。

ピーターの母マーガレット・ベーカーはアンドルーの使用人で 巡査部長 の妻。ロバートの母セーラ・シダウェイはアンドルーの弁護士の妻で、ロバートがアンドルーの息子であると告げる。そしてバイオレットが実はアンドルーの本当の子供で、母親はミス・カンピオンだった、と。ピーターの母親は、夫と子供の目の前で ”息子の父親は別では疑惑” をかけられるというびっくりの尋問を受けていたのでわりと覚えているのですが、対するロバートの母親って殆ど出てこなかったような。そして息子とはというと、ロバートは出てくるけどピーターはほぼ出てこず。ピーター影薄すぎ。

私は最後まで犯人は全くわからず、シダウェイ夫人と言われても結構唐突な気がしました…まぁそもそもこいつ誰状態だったのですが。手がかりとしては、医者の鞄をさわってる描写があるのとロバートにアンドルーの息子だと吹き込んだのぐらいだし、看護婦なんて後出しだわ…と思って何度か見返したら、ピーターの母親が、息子のことを聞かれた時にシダウェイ夫人(=ロバートの母)が看護婦だったということをポロっと言っていたんですね。シダウェイ夫人は地味で全然印象に残らなかったので、上手いこと紛れてケムに巻かれてしまった。

そしてちょっとよくわからないのだけど、ロバートがアンドルーの息子と言うのも、ロバートの母のついた嘘ということでいいのよね?アンドルーと全く無関係なのに、ちょっと遺産貰えるだけでは飽き足らず、全部貰おうとしたのか…?「なぜ全部バイオレットに行くの?!」←いやあんたの息子他人だよね?あまりの強欲ぶりにドン引きです。ちょっとこの動機は無理やりすぎやしませんかね。そして医者は別に犯人に誘導されたわけでも無く、アンドルーの子どもの性別を勝手に都合よく男と勘違いしてくれていた、と。母親のありえない動機も医者の勘違いも、結末ありきのご都合主義っぽさがでてしまっているような。

アンドルーの息子ということになって財産総取りするロバート、しかも弁護士の息子で不利な遺言状を捨てる機会もあった。これでは息子に容疑がかかるのが目に見えている。そして隠し子バイオレットに行くはずだった遺産がロバートにかっさらわれるのを、有能な、それも女性権利・自立を重要視しているミス・カンピオンが見過ごすはずもなく。普通こんな状態では犯行に及ばないだろう…と思えてしょうがない。それにロバート自身には財産は行かなくともバイオレットと結婚するんだから、わざわざ人殺しという危ない橋を渡らなくても息子は分け前にはあずかれるし、なんならその後バイオレットを始末し…いやいけません、いけませんね。ミステリーを見ていると、ふと気が付くと上手いこと犯行に及ぶ方法を一生懸命考えていたりする。

こんな物騒なドラマと違って原作は意地っ張りで仲良しの叔父姪の微笑ましい話で短いので、オチは本読んで確認してください…と書きたいところですが、割としょうもないオチなのでついでに原作ネタバレも書いてしまいます。でもこの話はほのぼのしていて私は結構好きです。原作ネタバレ読みたくない人はここから5行程度(PC表示の場合)を飛ばしてください。

遺言状作成時の関係者への聞き込みによりポアロが見つけた暖炉の中の隠し穴には、黒こげの紙切れが。何者かに先を越され第2の遺言状は燃やされてしまった…というのは見せかけ。叔父は姪がフェイクの遺言状の方へ誘導されるようあからさまに痕跡を残しておきつつ、本当の遺言状は小汚い札にあぶり出しで書いておいたよ、という話でした。あぶり出し…w 嘘のようなオチですが本当にこんな話。なんか使い古されてしまって今では「ぷっ、何それ」という手段になってしまっているあぶり出しも、当時は斬新な方法だったのでしょうか…。

原作ネタバレ終了。

ちなみに、同じくアガサ・クリスティの描いた探偵ミス・マープルものでも、資産家で変わり者の爺さんが、遺産相続について若造たちをひっかける短編(『愛の探偵たち』収録の「風変りな冗談」)があります。こちらは遺言状がなく、さらには財産も跡形も無く、さてどこいった、という話。全財産かけてかわいい若造たちに謎かけしてしまうという、困った爺さんがここにも。こういう幾つになっても後先考えない子供みたいないたずらは、やっぱり女性ではなく男性特有、じいさんしかしなそうですね…なんて書いたら、今作の反対で男性差別だとか言われちゃうのかしら。

しかし、バイオレットが実の子なのに最初の遺言状では何も残さなかったとか、いくら女性は結婚するからと言っても相手が金持ちとも限らず、何が起こるかもわからず。ああいうのはあの時代普通だったんでしょうか。勉強もさせてもらえずお金も無く、これまで何の苦労もしなかったのにポンと身一つで放りだされたらどうするんだ。やっぱり女性も学ぶことは必要なり。そして私が今回学んだのは、「長生きしたいなら、遺言を書き替えるということを白昼堂々ランチの席で言ってはいけない」ということです。

次は「イタリア貴族殺害事件」です。






※追記 拍手でコメント頂いた方、ありがとうございます。楽しみにして頂けて恥ずかしいやら嬉しいやらです。これからもよろしくお願いいたします。
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