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【ドラマ】名探偵ポワロ『 ゴルフ場殺人事件』 ―ヘイスティングスの恋の集大成


『 ゴルフ場殺人事件』

いつもはドラマを見る前にだいたい原作を読み返しているのですが、『 ゴルフ場殺人事件』は文句なく☆1つにした全然好きではない話なので、今回は読み返さずにドラマ見た後に、ところどころ気になった部分だけ拾い読み。全部読むのはキツいんだもの…。でもこの話のドラマはまだ見ていなかったので、楽しみでもあり。なんせヘイスティングズが恋に落ちる話ですから。

まずはあらすじをNHKオンラインより―

ポワロに命の危険を訴えてきた富豪の男が、翌日ゴルフ場で死体となって発見される。

ポワロはヘイスティングスに誘われて、フランスのリゾート地ドービルへ。ホテルで知り合った富豪の男、ルノーから「命が危ないので助けてほしい」と相談され、彼の屋敷に向かう。だがルノーは行方不明に。夫人の話では夜中に覆面の二人組が侵入したという。その後、ゴルフ場のバンカーで背中を刺されたルノーの死体が発見される。


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主要部分には変更はないものの、全体としては別の話ぐらいに印象が違います。なにが違うって作品の雰囲気が一番かもしれん。原作はこれはギャグですか?と読むのがとてもとてもつらい程にあまりに型通りの人物たちにお決まりのパターンが繰り返されて、ラノベというか頭に花咲いた水戸黄門みたいな話なんですけど、ドラマはお昼のメロドラマ?火曜サスペンス?みたな。ポワロの時も『チョコレートの箱』や『二重の手がかり』でやたら哀愁漂うアレンジになっていたので(そもそも『チョコレートの箱』は恋愛話じゃないし)、ドラマスタッフはこういうのが好きなんでしょう。

アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
⇒原作感想はこちら:【本】『ゴルフ場殺人事件』―卒業おめでとう、ヘイスティングズ(アガサ・クリスティ著/ポアロ物)

以下ネタバレ有り

ゴルフ場


それに加えて、おそらく原作とは年齢層が違うのが原因の一つでしょうか。原作ではヘイスティングズは30代前半ぐらい(スタイルズ荘の怪事件時30歳で、そこから短編を挟んでの今作なのでそのぐらい?)、お相手役ダルシー(ドラマのベラ)は、明言はされていませんがヘイスティングズの想像だとせいぜい17歳かそこら。ヘイスティングズの想像だから間違ってるにしても、20ぐらいでしょうか。ドラマだと年はよくわかりませんが、双方+10歳はいってそうな。ベラとヘイスティングスに合わせてか、次郎ジロー警部もだいぶ老けて貫禄が。30前後の尊大な新進気鋭の警部は、年だけとったポンコツ警部に。しかも最後改心してポワロと謎の友情を育んでいた。全体的にキャピッとしたところが無くなりぐっと大人な話になった上に、時間の都合上かペラとダルシーの姉妹はベラの方に統合されている。

原作では、話の冒頭でヘイスティングズが列車で会った少女が、ジャックの元恋人ベラでありかつ殺人の犯人と思われたものの、実はよく似た姉妹でヘイスティングズが出会ったのは妹のダルシーの方。ジャックに捨てられた姉が思いつめたことをするのではないかと止めにきた(そして姉が殺したと勘違いした)妹ダルシーがヘイを利用してナイフを取り戻す、という流れです。ヘイスティングズは探偵である友と犯人(と勝手にヘイスティングズ一人で勘違いしていた)との間で葛藤しつつ、つかまりそうになったダルシーをついポアロにタックルをかまして逃がしてしまいこれで友情もお終いだと嘆き、(ポアロに心中で笑われながら)一人罪悪感に苦しむというコント作品。そしてヘイスティングズが最初目を奪われるのは真犯人マルトですw 見る目のなさを遺憾なく発揮。 最後はヘイスティングズとダルシーが、そしてお互いかばい合ったジャックとベラがよりを戻してカラっと明るいめでたしめでたし感。そりゃ最後ダルシーが木登りして窓からアクロバットで突入して犯人捕まえて「覚悟をおし!」とか言っちゃうぐらいにぶっ飛んでるしね、シリアスのシの字もないよね。原作のベラ&ダルシーは、さーかすのあくろばっとの名手ダルシベラシスターズです…わー、すごい 

この荒唐無稽さが読んでいてあまりにつらい原作と比較して、やたらシリアスでメロドラマちっくな雰囲気の落差にだいぶついていけないドラマバージョン。あのアホっぽさが恋し…くはないな、やっぱりドラマの方がいいかな。

ヘイスティングズ動かしづらいしやっぱりこいつ無しね、とばかりに長編2作目にしてアルゼンチン行きが示唆され追い出し準備にかかった原作シリーズとは違って、ドラマシリーズではこの話を中盤にもってきて、これまで散々見る目のなさを晒してきた男がまたもや殺人犯の女性に恋に落ちた、と見せつつ実は日頃のポワロの指導実ってかまともなお嫁さんついにゲットだぜ! ヘイスティングスの(主に一方的な)女性遍歴の集大成です。感慨深いものがあります。感慨深すぎて、ヘイスティングスの癖に生意気な、と思ってしまうぐらい。オチは?最後にオチはないの?と思ってしまうのはドラマ版ゆえか。

この話は何回読んでも、鉛管が何に使われたのか忘れてしまう。後の作品で ”証拠というのは何一つ見逃すまいと這いつくばって探さなければならないような小さいものばかりではなくでっかい鉛管だったりする” みたいな感じで何度かこの鉛管の話が出てくるのですが、その度に、あれなんだっけ、みたいな。たまたま敷地内で死んだ浮浪者の顔面を叩き潰して、偽のルノー氏の死体をでっち上げるため、ですね。この話は、事件が入り組みすぎてて鉛管のくだりを読んでもその他にいろいろ起こりすぎて忘れてしまうのよね。まず10年前に、妻と愛人による強盗を装った夫殺しがある。そして現在その犯人の一人ポール・ルノー(逃亡中)が共犯者バーナデット・ドブレイ(無罪放免)に恐喝され & ドブレイの娘マルトが遺産目当てでルノーの息子をたぶらかすというダブルパンチで、そこから逃れるためにでっち上げのポール・ルノー殺害事件が企てられる。鉛管と浮浪者の死体はここで使われる予定だった。そして逃亡を阻止しようとしてマルトがルノー氏を殺害、現在起こった実際の殺人事件はここのみで、複雑な割に殺害人数は一人、さほど大きな事件ではなく。

いろいろと大変な目にはあっているものの、いまいちそれだけしか起こってないと思ってしまうのは、被害者がそもそも人殺しで罪を償ってもおらず、恐喝されたのも自分の撒いた種によるものだし、しかもまたまた逃げようとしたところを殺されたので、まあそうなるよねという感じでなんかどうでもよいと思ってしまうから。奥さんの方は誰にも害は与えず事件をでっち上げた程度ではありますが、そもそも逃げようとしないで夫に自首させればよかったのに逃げようとした時点でいまいち同情する気がせず。成金のチンピラヤクザ同士の仲間割れとしか思えん。

そんで穴掘ってたらなんか何たる偶然かみんな集まってくるしなんか茨の棘ですんごいドバーッと血出てるしで凄まじい偶然の産物が描け合わさって、いろいろごちゃごちゃ混ぜ合わせた結果チーンと出来上がったのがヘイスティングス&ベラカップル。元の話があれなので、話はやっぱりちょっとなんだかなという感じではありますが、やはりあのヘイスティングズがついに幸せを掴んだのがこのお話の全てですね。

で、やたら奥さんの手を握る秘書は結局何でもなかったの?


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