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【本】『メソポタミヤの殺人(メソポタミア殺人事件)』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―無理


『メソポタミアの殺人』☆☆★★★

これはクリスティ作品の中で、私が読み返した回数が少ない話の一つです。嫌いとかではなく、なんか印象が薄い。そして結構話を忘れているのに、また読み返したいという思いが出てくるかといったらちっとも出てこない、そんな話です。ドラマを見るにあたって何年ぶりかに読み返してみましたが、やなりなかなかページが進まず。

とりあえずあらすじ―

恐怖症に襲われている考古学者の妻の付き添いの依頼を受け、アッシリアで行われている遺跡発掘調査隊に合流したレザラン看護婦は、レイドナー夫人だけでなく調査隊のメンバーの間に、ある種の緊張状態が漂っていることに気づく。そして15年前に死んだはずの前の夫から他の男と結婚をしたら殺すという脅迫状を受け続け、博士と結婚後はなんとか逃げ切ったと思ったものの、つい3週間前に再び脅迫状がきたと打ち明けた翌日、美しいレイドナー夫人は殺された。


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以下ネタばれあり

アンコールワット 壁画


まず、この話のキーとなるのがレイドナー夫人の人物像なのですが、それがどうにもうまく想像できない。美しさと神秘的な容貌で人を惑わす魔性を持ち、かといって異性にだらしなくはなく賢く知的な女性。その実は自分が常に中心でないと我慢できないエゴイストで、人心を見抜く目があり、人を支配することを好む。雑魚をいたぶって手玉にとって遊んだりもするけれど、芸術家肌で好みに厳しく、しょせんそんな雑魚を本気で相手にはしたりはしない。

そう言われればそんな人もいるような気もするけれど、いややっぱり物語や映画の中の人物で現実的にはいないような気も。あまり身近にいないタイプなのでどうにも想像しにくいです。それにこの手のタイプの人と長いこと関係を築くのは、周りにとってだけでなく本人にも難しそうなので、こういった関係は入れ替わりの多い新陳代謝の激しい集団内でしか成立しなそう。なので、どうにもレイドナー博士との関係が不自然に思える。

レイドナー博士も博士で、”夫人は支配欲・征服欲が強いので当然結婚を望んでいなかったが、そんな彼女が結婚するほど相手の男性は強い性格の人だった” とポアロの解説にありますが、どうも読んでいる限り精神力的な面でも影響力的な面でもそんな感じに見えない。結婚数か月で逃げられてるし、その後は嫉妬で脅迫状書いて束縛しようとする小物っぷり。なんかどう考えてもレイドナー夫人の方が上じゃないですかね?レイドナー夫人を2回も結婚させてしまうほどの魅力のある男性には思えないのよね…。そんで2回目も案の定もっといい男現れてとられちゃうし。

ただここら辺は読み手のこれまでの経験にもよるので、人生経験の乏しい私にはしっくりこず理解できなかっただけでこういうのも有りなのかもしれません。この辺にうまく入り込めたら、人間模様の話としては面白かったかも。で、人物像は良いとして、問題は事件そのもの。これもかなり無理があるような気が。ほんの数カ月しか婚姻期間がなかったとはいえ夫の顔を忘れるか?私は何時間も話していた人の顔を数時間後にはコロッと忘れる、全く人の顔覚えられない人間ですが、それでもさすがにこれはないわ~と思います。15年前とは言え、子供の頃ならともかく大人になってからある程度親しい仲になった人の顔はさすがに忘れないだろう。クリスティには他にも顔見知りの知人になりすます作品(←リンク先作品名に付きネタバレ注意)があり、それはほとんど合っていない人同士だったり老眼だったりで私はわりと納得できて好きな話なのですが、さすがに夫はね…。たとえ見た目が変わっていても、声や癖や話し方で絶対バレるような。それが髭にころっと騙されて、スパイ容疑で売り払うまでに離れたかった男とまた結婚しちゃうなんて、なんか頭脳明晰で人の心を手玉にとるという設定のレイドナー夫人にしてはちょっと間抜けすぎやしませんかね?そうしないと話にならないけど、どうにもこうにも、レイドナー夫人とレイドナー博士が結婚するのがしっくりこない。そして石臼落として外したらどうするんでしょうかね?ハハハごめん、ごめんよハニー、サプラ~イズ!的なごまかし?

それに何より15年前に死んだ本物のレイドナー博士の方の知り合いは、もっと騙せないでしょう?ここはどうやってなりすましたんだってばよ!本物のレイドナー博士の知り合いを全員避けてまったくの新しい設定でやり直すならまだしも、素人が考古学者の設定ごと乗っ取っちゃったし!これ絶対無理だし!その後もたまたま考古学の隠れた才能開花とか、都合良すぎるし!

そしてこの話は証拠が無く、このレイドナー夫人の人物像から推理するというプロファイリング(?)みたいな感じで謎解きされるため、ここが納得できないと、はいこれが真相ですよと言われても、「そう…なんだ…」といった反応しかできず。しかもそのプロファイリングも、たまたま発掘調査旅行に持ってきていて本棚に並べていた本とかで判断されちゃうわけですよ。持ってきたは良いけどつまらなくて読んでない可能性もあるのに。私だったら旅には最近推理小説ばっか持って行ってるから、血なまぐさいこと好き、とかワイドショー好き、みたいな感じで見られちゃうのかしらw そんなんされるんだったら、おちおちクリスティの本も持って行けませんな!

そして舞台が中東らへんなため、私の好きなイギリスのお貴族様的優雅な雰囲気も少なく。といったわけで、無理だろ、という感想以外浮かんでこないお話。


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