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【ドラマ】名探偵ポワロ『五匹の子豚』 ―アミアスの絵は映らないの?!


『五匹の子豚』

とても大好きな原作のドラマ化は、やはりとても大好きな作品に。ドラマだと最初から人物が映ってしまうので、事件記録という被告・原告といった記号的で無味乾燥な人物像が、関係者の手記を通じてブワッと目の前に広がり十数年前に戻ったかのように生き生きと蘇ってくる原作のような圧倒される感覚はないのですが、でもその代わり、もう戻れない幸せな時代の最後の数日、といった全編に漂うノスタルジックな哀愁はドラマの圧勝。美しい映像、美しい女性達、美しい話。

ドラマは所々びっくりするような改変があるものの、おおむね原作に近い内容です。原作だと過去の回想は、ポアロに依頼されて5人の関係者達が書いたそれぞれの個性が溢れた手紙・手記によるものになっていましたが、ドラマでは時間の都合上面会と回想を一緒して手紙が省かれており。その代わりにあの淡い色彩のそれぞれの目線での回想シーンに。回想シーンはわざと手ぶれさせて、ホームビデオを撮影しているかのようなノスタルジックな雰囲気の回顧的な映像になっていました。カメラが語り手の視線としばしば同一のになるあの映し方は、歩く速度や揺れ、動揺といった語りの心情とともに、語り手が誰を見ていたか・何を見れなかったかを表現しているんでしょうね。それに加えて、その他の登場人物がカメラ(=語り手)に向かって話しかけてきたり笑いかけてきたりするので、見ている方もその語り手の立場を追体験しているような感覚に陥いれます。それがこの作品にぐっと引き込まれる要因の一つなんでしょう…と思いながらもしかし酔います。ブレッブレ。さすがにちょっと揺れ過ぎではなかろうか。手ぶれ補正機能お願いします。

初登場時は行けすかない感じだったフィリップは、いろんな意味で居たたまれない可哀そうなキャラに。あの前の日の午後、あんな緊迫した雰囲気の女性陣に囲まれてきょどっているシーンの不憫さには思わず笑いそうになってしまったわ。怖い怖い。そしてキャロラインがエルサに言ったセリフが素晴らしい。

「前からずっと疑っていたけど、あなた頭がおかしい」

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強烈ww 私もいつか誰かにこのセリフを使ってみたい。原作のキャロラインはもうちょっと大人しいというかアミアスと大げんかはするもののエルサには耐えるばかりだったので、思わず「そうだ!もっと言ったれ!」と思ってしまいました。しかしこのシーンのソファーの上にお行儀悪く裸足の足を載せて少女のように座るエルサや、メレディスのソクラテスのくだりをつまらなそうに聞くシーンのエルサは本当美しいですね。いるだけでまるで絵画のよう。他のシーンでは顔立ちのド派手さが目だって引くぐらいなのですが、硬い無表情で法廷を歩く若いころのエルサ等、時折思わず見ほれる程の美しさをみせる。アミアスが思わず溺れそうになるのもわかります。原作で読んだ時はエルサは昔のペネロペ・クルスのようなロングの色気ある妖艶な女性をイメージしていた(そういえばペネロペもトム・クルーズ離婚させたし)のでドラマ版のエルサを最初見た時は意外に思ったのですが、若い時期特有の純粋さで自己中に人を愛する子供のような女性の恐ろしさには、あんな感じの人が似あいますね。

…そして現在のミネラル麦茶なおばちゃんパーマのエルサを見た時のガッカリ感。いや、相変わらず綺麗だったけれども、おかっぱ時の切れるような美しさはなくなってしまって、見ていると不安をあおる、なんかホラー映画みたいなケバさ怖さに。でもこの印象の変化はまさに話の筋にぴったりなんだろうな…と思いながらもやっぱりガッカリ。おかっぱエルサの無邪気さを持ったまま成長した姿も見たかったわ…って話が全然違うものになっちゃうけど。そしてこの十何年も時が経った女性を同一の人が演じているという素晴らしさ。女優さんってすごい。

⇒原作感想はこちら:【本】『五匹の子豚』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―回想の殺人の傑作
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

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話の筋に関しては原作感想に全て書ききったので、こちらでは感想は省略します。浮かび上がった真実は、妹を守るはずが愛人の身替わりに死刑になるというなんとも報われない最期で、そして妹にも悔いの残るものであったでしょう。それでもあの手紙を読めば、エルサの願いもかなわず最期の瞬間もキャロラインの心は平穏で満たされていたんだろうと感じられるのが救いです。ドラマ終盤2度目に、今度はキャロラインの声で読み上げられるあの手紙には思わず目元がうるっと来ます。アミアスを殺しキャロラインを死刑に送り込んで肉体的に全て壊しても、エルサにはあの家族のお互いへの愛情は少しも壊せなかったわけで。原作感想でも書きましたが、最初から勝負になっていない感。

ドラマには1点だけ大きな不満があります。キャロラインとフィリップの事に関して。原作ではフィリップが惚れていたのはアミアスではなくキャロラインで、ずっと彼女が好きで他の男のものになってしまってからは彼女を憎むようになります。そしてあの夏の夜、フィリップは夫婦の危機に漬け込んでキャロラインを口説こうとしますが、きっぱりと拒絶され、余計に憎むようにという流れです。原作のキャロラインは浮気された寂しさから他の男に走るような哀れな女性ではないし、色仕掛けをして断れたからといって意地の悪い捨て台詞を言ったりもしない(とはいえわざわざ部屋まできて拒むのはなかなか酷いとは思いますがw)、フィリップはひどいこと言われてベソかくような男でもなくw なんだろう、『ナイルに死す』のサイモンといい、名探偵ポワロの男性陣はここぞという時に泣いちゃうのね。法廷で責め立てられマスコミに追い回されるのを楽しみながらキャロラインを死刑へおいこんだエルサの太すぎる神経を分けてあげて欲しいわ。あと最後の銃のくだりも要らないです。原作と一緒で、死んだのは私だったのです、で最初の3人の幸せな回想シーンになって終わればよかったな。

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そしてなんといっても見たかったのはアミアスの描いたエルサの絵、これもっとバーンと大々的に尺とって映ると思って期待していたのですがチラッと映っただけだったのが残念。若さ、燃ゆるばかりの生気溢れる生命の塊のような娘の絵。そして毒を盛り愛した男がじっくり死んでいく様を生き生きと眺めていた女を、殺される愛人自身が描いた絵。傑作ということになっているので再現するのは難しかったのでしょうか、見たかったな~。ちなみにこの絵は原作では、事件後実はエルサに心奪われていたメレディスが買い取り、あの薬草の実験室だった部屋にひっそりと飾っています。

1点だけといいながらずるずる不満点書きましたが、原作が素晴らしくドラマも想像以上に素晴らしい出来だったので余計に気になって書いただけで、全体的にとても見ごたえがあります。見終わった後に、哀しさと優しさの入り混じった、なんとも言えない余韻の残る作品。架空の物語だけれども、キャロラインの最期の心の平安と、彼女の命をかけて守ったアンジェラとカーラの幸せを願わずにはいられません。ドラマの名探偵ポワロシリーズの中で、1・2を争う大好きな話です。



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