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【本】『ホロー荘の殺人』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―主に登場人物達の嫌な所に共感する話

『ホロー荘の殺人』☆☆☆★★

クリスティの話を、そりゃご都合主義的だろうというようなハッピーエンド系の話と、ねっとりとした後味悪い系の話の2つにわけるとすれば、これは後味悪い系の一つ。推理小説というより普通の小説に近い気もします。ポアロの登場や殺人が起こるのもそこそこ遅く、そして登場しても他の登場人物と同じような感じの扱いを受けているような感じの文章。なのでちょっと偏屈で扱いづらいポアロの内面も結構書かれていて、ああそうだった、しばらくドラマのポワロ見てたから引きずられたけど、そういえばこういうめんどくさそうなおじさんだったわ、と思いだした作品w


この話、登場人物が生きづらい現実にいろいろと悩みつつ解決もできずそのまま過ごしているという、そこらへんにいそうな良くも悪くもない普通の人っぽい点が好きでもあり、ゆえにとても愚痴っぽく、そしてどことなく斜に構えて世間を見る視点がラノベっぽい…?と感じてちょっとう~ん、と思う点でもあります。根暗でシニカルな視点がずっと続くので、読んでいて誰も好きになれないし、しかし一方で登場人物一人一人のその嫌な点に共感するという。

とりあえずあらすじ―

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ある秋の週末、元行政官のヘンリーとその老いても不思議な魅力をもつ妻ルーシーの持つホロー荘で休暇を過ごすために、医師のジョンとその妻ガータ、ジョンの愛人ヘンリエッタと、ヘンリエッタを愛するエドワード、エドワードを愛するミッジがやってきた。

女優のヴェロニカとの婚約を地獄の苦しみで破棄したジョンは、彼女と正反対の地味で頭の鈍く自分を盲目的に信じるガーダと結婚する。15年間、いろんな女性と関係しつつも結婚生活は続いていたが、ジョンはこのところひどく疲れを感じていた。しかしホロー荘でヴェロニカに再会し一夜を共にし、15年間の感情にやっと決着をつけたことで過去の束縛から解放され、改めて結婚生活をやり直そうと心に誓ったところで、何者かに銃で撃たれ殺される。

これだけ読むとジョンはとんだ最低野郎ですね。いや、実際そうなのですが、それでも話の中では、様々な女と関係したけれど一方で一番心にとめていたのは貧民街のおばあさん患者、名声も金も本当は要らず彼女と共に難病を解明しようと戦った立派な人物で、誰よりも”生きて”いた、として描かれています。納得できるようなできないような、でもこういう人いそう、立派な部分と最低な部分が混在するのが人間よね、と思ってしまう登場人物たちの描写がよいです。

ガーダの、失敗する・叱られるのが怖くマトンを前にさんざん悩むだけで結局何もできずに立ちすくんでいる様子や、ジョンの人に振り回されるのは我慢できないのに従順なガーダにはひたすらイライラするところ、お金のために嫌な仕事を毎日ひたすら耐えるしかないミッジ、ただ毎日を生き何も成し遂げず何も生み出せない人間であるエドワード等、主に登場人物達の嫌な所や辛いところが説得力ある描写(というかそいういうところばっか描かれている)なので、読んでいて鬱々とした気分と不快感を味わうことができます。

アガサ・クリスティ 作品・感想一覧はこちら

以下ネタばれあり ※『エッジウェア卿の死』の犯人ネタバレもあり

シャンティイ 森


ガーダはボーダーか軽い知的障害のある人物で頭の回転が鈍いものの、実際は周りが思うほど馬鹿ではなく、わざと出来ない・わからないふりをして周りがイラッとして代わりにやるのを待つという、面倒なことから逃げる人特有の狡猾さをもった人物。まわりから可哀想な人と思われ扱われていますが、その下に見る視線を利用して生き抜いてきた。

実物以上に馬鹿に見せるという手法は、『葬儀を終えて 』のロザムンドや『エッジウェア卿の死』のジェーン・ウィルキンソン等も使っていて、『エッジウェア卿の死』の感想でも書きましたが、自分より下と思われる人へ見せる世間の油断・甘さのような物を見せつけられるので読んでいてヒヤッとするものを感じます。さて、馬鹿なのはどっちでしょう、みたいな。

 ⇒関連エントリー:【本】『エッジウェア卿殺人事件』(エッジウェア卿の死) ―女たるもの喪服のフィッティングもしなければ…!

『エッジウェア卿の死』のジェーン・ウィルキンソンの時はあまりに子供じみた方法すぎてそんな馬鹿な!とポアロもなかなかな苦戦する犯行方法でしたが、こちらガータの犯行はさらにダメダメでボロが出まくりなところを、頭の良いヘンリエッタとルーシーが手助けして捜査陣を煙に巻きます。ヘンリエッタは愛した人に頼まれたから、ルーシーは…軽い親切心?面白いから?2人ともさほどガーダ自身を想ってではないんですよね。そのせいか犯行の大きな部分を占めるこの2人の人物像がいまいちピンとこないのが、この話をラノベっぽく感じてしまう要因か。いくら愛する男の頼みとは言え、愛人が本妻を、自分に罪がかぶせられる危険も冒してまでかばうか?ヘンリエッタはただの愛人というかジョンの相棒、半身のような女性なのですが、それでもねぇ。魅力があるような、ちょっと嘘くさいような、そんな感じの人物。

捉えどころのない妖精ルーシー(御年60歳)に至っては、もう想像のできる範囲を超え。天然系で、頭の回転が速いため話がすぐふっ飛んで周りを煙に巻き、ふわりと両手を広げて「まあごめんなさい☆」と可愛らしくあやまったと思ったらてきぱきと銃に弾を込めてぶっぱなす。読んでてポカーンですよ。これ、お年だからそうでもないけど、若い女性だったらものすごくラノベ的な登場人物のような。それに加えて、ラストもポアロによるハイ、謎解き、とするのではなくて、ヘンリエッタにバレたガーダが自爆するだけなので、物語的に最後までポアロ無しでもまったく支障なく話が進んだのではないか、と思われる点も少し気になります。

なのでいろいろと心に引っかかり印象深いところはある話ではあるものの、手放しで好きと言える作品ではなく、かなり悩んだものの☆3つにしました。ちなみに一番好きな登場人物は、平凡で何のとりえもなく、地に足がついた人間のもつ底力、そういうものを感じられるミッジです。


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