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【ドラマ】名探偵ポワロ『葬儀を終えて』―ワータシハ馬鹿ナオンナー!!!!

『葬儀を終えて』

怖い…!!!これはサスペンスですかね?サイコホラーですかね?あんまりに度肝を抜かれたので、最後の種明かしのシーンを何度も巻き戻して英語に替えたり日本語吹き替えにもどしたりして繰り返し見てはまた悶え。もう何回でも見れるわ。

とりあえずあらすじはNHKオンラインより引用
兄の葬儀の翌日に妹が殺された!相続人たちの隠された秘密とは…?

資産家のリチャードが急死する。彼には子どもはなく、お気に入りだったおいのジョージが遺産の大部分を相続すると思われていた。だが、遺言状には相続人で平等に分配せよとあり、ジョージは相続人から除外されていた。不穏な空気に包まれる中、リチャードの妹のコーラが、「兄は殺された」と葬儀で口走り…。翌日、コーラは遺体で発見される。





原作は冒頭に家系図がついているぐらい登場人物が多く、覚えづらい話。ドラマでは結構人数が整理された上に、冒頭にエントウィッスルさんが丁寧に解説してくれましたが、わからなくなっても家系図見に戻ることのできないドラマでは、冒頭で覚えないとその後ずっと何が何だかわからなくなるのでいつも大変。原作知っててもちょっと設定変わってるとわからなくなるんだから、ドラマだけで見ている人は大丈夫なんだろうか。今作は殺人に関わる筋は変わっていませんが、親族の人間関係がだいぶ変わっています。そして起こる出来事も結構違う割に、セリフはかなり原作に忠実だったり。

⇒原作感想はこちら:【本】完璧なるお屋敷ミステリー『葬儀を終えて』(アガサ・クリスティ)
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
以下ネタバレあり

クリームティー


原作では均等といっていい感じの遺産配分が、ドラマではいかにも骨肉の争いを引き起こしそうな遺言に…と思ったらそれは偽造、事務所が荒らされ権利書が盗まれたとか火葬とか、そこらへんまるっとオリジナル。登場人物に関してはドラマではリチャードの死んだ兄弟達が整理されて減らされた結果、ヘレンとジョージが親子になって、スザンナ(スーザン)はロザムンドと姉妹になってしかも独身になっている。

ヘレンとジョージが親子になって…ということは、つまりジョージがヘレンとリチャードの子供というのもドラマオリジナル設定です。ここらへんが話の大きな部分を占めているのが、ドラマと原作の最大の違いですね。原作ではヘレンは夫が死んだ後、妻子ある男性と不倫をし、誰にも知られずひっそりと子供(ジョージではない)を産んでいます。ジョージはヘレンではなくリチャードの妹の息子で、軽くてロクでなしで見るからに犯罪をおかしそうな、つまり話の中では雑魚的役割です。それがまーなんとドラマではマイケル・ファスベンダーですよ、主人公的な悩める青年的立ち位置ですよ。えらく出世したではないか、ジョージ。しかもお色気シーンまで追加されちゃって。しかしあんなところに本当の遺言書を入れておくなんて、いずれ見つけてくれと言わんばかりですね。本当に自分を外す気あったのか。ジョージ坊ちゃまにはあれが限界か。

ちなみにティモシー叔父さんのキャラは原作だとさらに濃いです。ベッドに寝くさり何でも奥さんにやらせて ”わしゃ死ぬ死ぬ” 言いながら、庭で野良猫が騒ぐとダッと窓辺に走り寄ってコラーッ!と分厚い本を投げつける性格ひん曲がったじじいなので、読んでかなりイラッとするのですが、ドラマではダッシュで車いす戻って”持病の癪(しゃく)がぜんそくが…”とかなんかコミカルな夫婦になっていました。あそこは思わず笑っちゃう。コーラの元旦那さんにやきもち焼いていたりしたし、思わず末永くお幸せにと思ってしまったわ。

コーラの元旦那さんがコーラの家に来て鑑定した後、皆で淡い光の斜めに差す部屋でお茶をするシーンの美しいことといったら!ニューシーズンは映像の構図がほんと綺麗。中心にミス・ギルクリスが居るのが、動機を知った後に見るともうね。何も語らないけど、一人光の差す中に悠然と佇む様子はまさに喫茶室の女主人。「ギルクリストの喫茶室」とでも名付けたい様な(←非常に安易)絵画のような場面です。

コンパニオンなのに荷物を持たされたり食事の最中に用事を言いつけられたりといったシーンはドラマオリジナル。犯人が送ってきたであろうこういったことが何年も繰り返される生活が垣間見れてよかったです。原作では、やりたくもない、自分のものとも思えない仕事を押し付けられている描写はそこまで出てこず。”私がやるのは簡単な料理程度で、それ以外の掃除やらなんやらの「荒仕事」はできませんの…”的なことをきかれもしないのにいちいち言っているので、それなりに仕事の範囲、というか身分・立場にこだわりがあるんだろうな、というのが匂わされているにとどまっています。

そもそもコンパニオン自体が意にそわない仕事で仕方なくやっていて、最後の抵抗で少なくとも自分は家事をするような身分じゃない、もっと上だということにささやかなプライドを持っているのに、人から見ればどっちもどっち、下は下、とひとくくりにされるというのはかなり屈辱的で耐え難いのでしょう。しかしギルクリフトさんに怒られそうですがコンパニオンと召使の差がいまいちわから無いわ。ということでwikiで調べてみると―

レディズ・コンパニオン(英語: lady's companion)は、上流または富裕な女性に雇われ、そのお相手をする生まれ育ちの良い女性のこと。
~中略~
レディズ・コンパニオンは使用人とは見なされていなかった。雇い主がコンパニオンに求めたのは、自分と同じか、少しだけ下の階級の女性であることだった。

コンパニオンの役割は、雇い主と一緒に時間を過ごし、話し相手となり、雇い主が客をもてなすのを助け、しばしば社交行事に同行することであった。コンパニオンは、雇い主が自らしない類の家事をすること、言い換えれば使用人に命令したり、上品な刺繍をしたり、お茶を注いだりする以外のことは期待されていなかった。このようにコンパニオンの役割は、金銭的に依存することによる本質的な従属関係に目をつぶれば、家庭婦人同士の敬意を伴った交際関係とさほど異なるものではなかった。
引用元:wikipedia

イメージとしては雇われ友人、みたいな感じなのかな。相棒のような立ち位置だけど、あくまでお金貰ってるわけで雇い主の都合のいいように動かなければならない、的な。とりあえず本格的な家事をやらされるような身分ではないようです。画家の父を持ち、自身も絵を見る目を持ち、コーラよりも頭脳も明晰で、ただ1点お金がないというだけで自分よりも能力の劣る人の下で働かなければならない。そしてこの生活から逃れるために喉から出るほど欲しい喫茶室の開店資金どころではない莫大な財産の話を、来る日も来る日も聞かされる。なんでこんな奴が、という人が自分の欲しいものを手に入れ、しかもたいした物でないように扱う様子を間近で見る生活。

上下を付けるのが良いこととは思いませんが、身分とまでは行かずとも、たとえば仕事だったりサービスだったり、こんなことをするほど落ちぶれちゃいない、こんな扱いを受けるなんてキーッ!と思ってしまうポイントは誰でも何かしら持っているのではないでしょうか…ないのかな?どうだろう。私はあります。そんなことを気にしない人格者になれたらいいのですが、人からどんな扱いを受けるかということは、やはり人目が気になってしまう俗世の人からすると自身の尊厳に関わってくるセンシティブな部分であり。動機は喫茶室の開店資金ですが、つまるところここを踏みにじられたゆえの殺人、屈辱的な生活から逃れるための殺人という動機はなんだか悲しく哀れで、でも理解できるところもあります。

最後の種明かしのシーンは圧巻。「ノンノンノンマドモワゼル…もっと大事なもののためでしょ」等持ち上げて落としたりしてポワロのセリフにこじゃれた手厳しさの光る解説に、完璧な一人二役。クリスティ作品には犯人が一人二役を演じるものが結構あって、本ではころっと騙せても映像にするにはとてもむずかしいと思うのですが、葬儀のコーラとギルクリフトが同一人物とはわからない人が多かったのではないでしょうか。私は筋を知って見ていたのに、どう見ても別人に見えたわ。

原作では、叙述トリックと言うのでしょうか、葬儀を終えて電車に乗り込み、偽善者ぶった親戚たちに毒づきながらも大金を手に入れたこれからの生活を思い浮かべて、この先殺されるとも知らずにほくそ笑むコーラ…の描写だと思ったものが、実は騙してやった金持ちの一族をあざ笑い計画の成功を目前にしこれからコーラを殺そうとするミス・ギルクリストの描写だった、という点が面白いのですが、さすがに映像ではここは再現できませんでした。でもそれがなくても余りある化けっぷり。元々コーラが変人でけばけばしい恰好をしているというのも、変装しやすく都合がよかったね。次第に首を小刻みに振りながら笑って落ち着きがなくなっていくギルクリフトさんの怪演が怖い怖い。最終的には目玉ひんむいてコーラと一族への罵詈雑言。わ~、犯人のお約束の豹変きたー、怖いわ~とか思っていたら

ワータシハ馬鹿ナオンナー!!!!

(((((( ;゚Д゚))))))歌イダシチャッタ…!原作の5割増しぐらいでギルクリストさんが強烈です。原作では「淑女みたいな殺人者」と言われたように「喫茶室がものにならないのでしたら、私もうどうなってもいいんですの」的な感じであっさりしずしず退場、留置所に入ってからはすっかり精神異常で毎日喫茶室の計画をしている、という静かな怖さのある描写でしたが、ドラマでは逮捕されてすぐあちら側に行っちゃいました。みんなドン引き、ポワロさんまでドン引きしてた…。

ほんとこの話は面白い。原作も面白いけど、話の変わっているドラマも面白い。名探偵ポワロシリーズは改変が上手いですね。改変に地雷の多いミス・マープルシリーズとは大違いだわ…あっちも好きだけど。ちなみに原作は、より独善的なスザンナ(スーザン)とドラマでは出てこない夫との関係とか、スーザンとロザムンドの対比とか読み応えのある作品。女性が読むと特に面白いというか耳がいたいというか。まだ読んでいない方はぜひ!



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