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【ドラマ】名探偵ポワロ『満潮に乗って』 ―ローリーが受け付けない


『満潮に乗って』

ドラマではこの話でやっとジョージが初登場。ジョージは原作ではもっと前から登場しています。ミス・レモンより登場回数は多いか?ちょっとそのへん定かではありませんが。初め原作を読んでいた頃はもっとお年を召した細い(じいやみたいな)執事を想像していたため初めて見た時はそのいかつさに違和感があったけど、もう慣れてきたか。

そして、あれ?ポワロさんの事務所の中がだいぶ変わっている。なんかジャポニズムな感じに。ドラマの小物も全体的に綺麗なんだけど、わりとすっきりした感じ?クラシックな荘厳さがちょっと少ないような。いつもより気になる小物が少なかったわ。でもこの間イギリスのタータンの由来を調べたのもあって、ポーター少佐の車いすとか、ドラマの中のタータンが気になってしょうがなかった。

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あらすじはNHKオンラインより引用
爆発事故で死亡した大富豪の遺産を相続した妻。彼女に重婚疑惑が…?

爆発事故で死亡した大富豪ゴードン。遺産を相続した妻のロザリーンは、兄のデビッドに厳しく遺産を管理されていた。ゴードンの資金援助に頼っていた彼の一族にとって、二人は邪魔者だ。やがて、死んだとされるロザリーンの前夫の友人という男が現れ、「前夫は生きている」とデビッドを脅迫し、金を要求。その翌日、男は死体となって発見される。


⇒原作感想はこちら:【本】『満潮に乗って』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―ローリーが好みじゃない
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そして話も相当変わっています。なんせ犯行自体が変わっちゃってるからね!まずは冒頭からガス爆発。ぼさぼさヘアで出てきてもロザリーンがあれだけ可愛いなんて…というのはさておき、なんかだいぶド派手な演出に。原作は戦後の話なのですが、wikiによるとドラマは1930年代で年代を固定しているようなので、リンが戦争に参加して帰ってきたとかもアフリカ帰りに変わっているし、戦争による空襲でクロードが死んだという設定も、爆発に変更するしかないのね…

以下ネタバレあり

ラデュレ シャンゼリゼ

とか思っていたら、ほっほーん!デイビットが凶悪な爆発犯になっておる。なんじゃこりゃ~!苦手な原作の中で数少ない好きな所だった、「これまで起きた人死には殺人ではなく、結局殺人は最後の最後に起こったロザリーンの自殺(に見せかけた殺人)ただ一つだった。これまで散々醜い争いを描いてきた巨額の遺産は、殺人の直接の動機じゃなかった。」という点がまるまるなかったことになってしまい。まあこれまで読んできたのはなんだったんだ、という感想になりかねないからなんでしょうかね。

そしてデイビット、極悪犯の上にシスコンのドS調教師に…。ここは替えたくなるのもわからなくはないです。原作では、凄く悪そうな雰囲気を漂わせていたデイビットは結局のところ、メイドさんたらしこんで空襲で死んだ妹の替え玉に仕立て上げて遺産を奪った詐欺師、最終的に保身と女性問題的なところでロザリーンを殺すだけ。ついでにアンダーヘイ殺しまで押し付けられちゃって、なんとなく犯人としては間抜けというか小粒で盛り上がりに欠ける(といっていいのか)部分があります。もうちょっと大きな犯罪者カモーンということであんな筋になったんでしょうかね。

原作の筋はこう。妹が富豪と結婚したのに便乗してやっといい生活にありつけたと思ったのに、その妹(とゴードン)が空襲で死んでしまった。そこで前からたらしこんでたメイドさんを妹に仕立て上げて良い生活を続けます。メイドさん(ロザリーン)は単に恋人のいうとおりに行動してしまった、素直であまりかしこくない女性。空襲で怖い目にあった上に罪の意識に悩まされ、神経がやられて自白も時間の問題。このままでは我が身が危ないと思ったデイビットに(ついでにリンに惚れてロザリーンが邪魔になったということもあり)自殺に見せかけて殺されるわけです。ロザリーンの死で巨額の財産を失い、殺人の動機がないと思われたデイビットが犯人、という話。が、ドラマではロザリーン助かってしまって、んじゃだれも殺人おかしてないじゃん、どうすんの?と思ったら最初の爆発は計画的なものでその犯人に変更されていた。そしてロザリーンのはほんとに自殺だったのね。でも死ななくて良かった…と思ったらなんかさらに胸クソわるい設定になっていました。なに、堕胎って…。原作では当然シスコンも堕胎もなし、洗脳も無し。医者はモルヒネ中毒の所は一緒ですが、ロザリーンのを盗んだりしてない。というかそもそも原作ではロザリーンはモルヒネ中毒ではない。

原作全体の筋は、遺産を貰えず食いっぱぐれたクロード一族がロザリーンから遺産を奪おうとあがいた結果、まず一人過失致死で死なせてしまい、それをデイビットに擦り付け遺産を奪おうとした結果ポーター少佐まで自殺に追いやった。この時点で終われば、間抜けなクロード一族が、詐欺師にしてやられて他人を巻き込み死に追いやって自滅する話。それが最終的には前述の動機でロザリーン殺したデイビットに全部擦り付けることに成功、最後首絞められたリンはスリルに興奮してローリーに惚れ直すという破廉恥プレイでクロード一族めでたしめでたしというびっくりの結末を迎えます。

しかしドラマではやはりローリーとリンは婚約破棄で、まあ当然そうなるよな、という納得の結末ではあるものの、デイビットだけでなくてクロード一族もかなり陰険な感じにパワーアップ。

私は原作を読んだ時点ではローリー以外のクロード一族にはそこまで嫌悪感はなく。先の事を考えずのほほんと暮らしてきたクロード一族のことを責める意見もありますが、クロードから面倒を見ると何度も言われてきているわけで遺言も書かれていたんだから、なにもわざわざしなくてもいい苦労をする必要はない、一応皆ちゃんと仕事はしているわけだし、程度に思っていました。しかしこれまでクロードのお金を当てにしてきたこと自体は別に悪いことはないけど、運悪く財政が傾いた時に、自力で立ち向かった手段が悪かった。

「デイビットは偽物の兄なんじゃないのか」と陰口をたたいていた当の本人たちが、偽物のアンダーヘイをでっち上げるわ、裁判に偽物の証人まででっち上げるわ(ドラマでは陰湿な嫌がらせの電話までしているし)。ローリーはクロードにアンダーヘイ死なせた罪をなすり付けようとする始末。なんの良心も呵責も感じず、吊るされる所が見たいとか言っちゃってますからね。もうあのもっさりして卑屈な笑いをするローリーは生理的に受け付けない。原作読んだ時点でとてもいまいちだったローリー、よくもまぁぴったりな役者さんを見つけてきたというべきか、もしくはそれほど役者さんの演技が素晴らしかったのか。劣等感を表面的なやさしさや服従でごまかしてる、いかにもDVに走りそうなタイプですね。そもそもドラマ版のローリーとリンじゃ全然釣り合ってないし。原作だとそこまで不似合いという感じでもなかったんだけど…(結婚すべきでないタイプではある事には変わりないけど)。

いや~なんかローリーもデイビットもどっちも酷い。もう代わる代わる、うわ酷い、いやこっちもキモイ、とダメさを見せつけてくれます。リンの見る目のなさといったら…。そりゃ最後にポワロさんにあんなお土産渡しちゃいますわ。しかし首絞められてもローリーと結婚せずにすんだところは、デイビットの唯一のお手柄か…と思ったらこんどはロザリーンがデイビッドの頬をカッターで切って「それがとっても嬉しかった…」えっ?こんどはそいういうプレイ?変態属性はデイヴィッド&ロザリーンに移ったようです。

そうそう変態といえば、緊迫した音楽の中、アンダーヘイ(偽)が表れてデイビットを脅したのを知りスタグへ向かうローリーの車が、ニヤニヤ笑いながら妙なテンションで歩くスカーフ巻いたおばちゃんとすれ違うシーンがあります。あれは後から考えるとイタ電しにいくケイシイ叔母さんなのですが、私は原作読んでたのでてっきりあれが女装したデイビットだと思い込んでおりw だってスカーフしてたし!なんかおっさんっぽかったし!テンション変だったし!緊迫したシーンで女装シーンを流すなんて、それにしてもこのドラマシリーズは女優・俳優陣の一人二役がすごいな、今回もあっぱれな化けっぷりだわ~とか思っていたわ。ごめんなさい、ケイシイ叔母さん。

でも面白かったのはそこと、キャンディ食べるかと聞かれて一瞬嬉しそうな顔したのに、好みの物じゃなかったのかほっぺたブルブル言わせて断っていたポワロさんぐらい。あとはなんか見た後にうへ~としたものが残る話でした。私は暗い話は嫌いではなく、人間のダメな部分が露骨に描かれていてもそれはそれで共感できてハッピーエンド物より好きだったりするのですが、これはなんか誰にも共感できないわ。変態が人殺してお間抜け達がさらに引っ掻き回しただけ、みたいな。もう最後の絞首刑のシーンとか、絞首刑自体はまだいいですが言ってる赤ん坊のくだりが悪趣味すぎてげんなり。インパクトあること言えばいいってもんじゃないだろうに。もうリンがあの気持ち悪いローリーと一緒にならなかったのとロザリーンが生きていたのだけが救い。この話は原作と同じくドラマも、あまり見返さないと思う。



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