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【本】『第三の女』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―小汚いクリスティ版オフィーリア


『第三の女』☆☆☆★★(ドラマ感想はこちら

ビートルズとかも出て来ちゃう1966年とかなり後期の方の作品。オープニングがとても好きだったのになぜかあまり面白くない印象があってあまり読み返していなかったのですが、読んでみると普通に面白かった。多分『複数の時計』と印象が混ざった? なんでか後期の『鳩のなかの猫』『複数の時計』『第三の女』は、ぜんぜん違う話なのに私の中で混ざりがちです。

殺人を犯したかもしれない、と相談に来たがポアロを見るなり年を取りすぎているからと出ていってしまった少女は、オリヴァ夫人の知り合いの娘ノーマだった。近頃若い人たちが家賃の高いロンドンのマンションに住むためにルームメイトを募り家賃を分担するのが流行っており、ノーマは実業界の大物である父親の秘書のクローディアの元でサードガール(3番目のルームメイト)として暮らしていたが、週末から行方をくらませていた。


全然身体的魅力のない汚い少女だと心の中で悪態をつきながらもしぶしぶ面会してやった相手に、ごめんなさい思ったより年寄り過ぎていらっしゃるからと断られるという、原作の高慢ちきなポアロにぴったりななんて素敵な可哀想なオープニング。しかも傲慢な感じではなく、ごめんなさいと謝られるとか居たたまれない。ドアがぱたんと閉まった後に、畜生!と叫ぶポワロの絵を想像するととてもおかしい。

このシーンのテンポの良さや、暴漢に殴られて「孔雀を買いましょう。ぶんなぐれ!」と言いながら目を覚ますオリヴァ夫人のシーンやら、やたらコミカルな面白味のある作品。冒頭の事を根に持って、ことあるごとに私は「もう年寄りだからと」とか言いだす面倒なポアロや、さんざん人を煙に巻いておきながら「本物の孔雀になぐられたわけないでしょう」と小ばかにしつつ満足げに眠りにつくオリヴァ夫人とか大好きですね。ファンの間ではオリヴァ夫人は結構好き嫌いが分かれるようですが、私は好きです。クリスティを読みだした最初の頃に読んでいたのがオリヴァ夫人が出てくる話だったからかも。破天荒なオリヴァ夫人に振り回されるポアロ、高慢ちきなポアロのご機嫌を取りつつ呆れているオリヴァ夫人、この2人の組み合わせはいいわ~。考え込むときにカツラをかきむしるオリヴァ夫人の頭からポロポロと落ちた付け毛をそっと拾うポアロの図が好き。後期の作品で多いじっとりとした皮肉っぽさや、人の心の奥を覗くようなヒヤッとする描写はすっかり影を潜め、なんだか漫画的なカラッとあっさりとした明るさがあります。ジョージにゴビイに ミス・レモンも登場の、なかなかにぎやかな作品。

ニール主任警部という名前に聞き覚えがあり、しかもポアロの以前からの知り合いでなかなかいい味出していたのでどこかで出てきたのかと思って調べてみると、ミス・マープルシリーズの『ポケットにライ麦を』にニール警部という有能そうな警部が出てきたけど、同一人物なのか単に名前が一緒なだけかはわからず、決め手に欠けます。

⇒ドラマ版感想はこちら:【ドラマ】名探偵ポワロ『第三の女』 ―オースティン・パワーズな孔雀デイビットが見たかった
アガサ・クリスティ 作品・感想一覧はこちら

以下ネタばれあり

アムステルダム


殺人がなかなか出てこないので、これから起こる殺人(ノーマ殺し)を防ぐタイプの話かと思いきや、やはり殺人はしょっぱなから起こっていた。でもクリスティの話でよくある、殺人が起こるまでの過程を長々と描いたり、起こってから回想に沈んでいくといったように、どうして殺人がおこったかその背景と心理描写を探っていくパターンではなく、このルイーズ殺しについてはほんとうにサラッと触れる程度なのが珍しい。そしてデイビット殺しはおまけっぽいし、メインは財産狙いのなりすましと邪魔な娘ノーマの排除、全体的にそんなに派手な犯罪は起こらないのに読んでいてハラハラして先が気になる話です。

しか~し!またまたクリスティでよくある、演劇関係者による一人二役。継母とルームメイトが同じ人っていうのは無理があるだろう!さすがにそれは気づくと思うんだけどな~。いくら演劇学校に通っていたからって、いくら流行りの小汚い恰好で髪の毛を汚く垂れ流してるからって、1年前から同居して、別居後も継母とルームメイトとして交互に合っている状態で、気が付かないとかあり??それともフランシスとして合う時は常に薬漬けにしてたの?なんか最後の最後にこれまでのハラハラもすっ飛ぶそりゃないよな種明かしで。

そんな感じで肝心の事件の筋にはポカーンとしてしまう残念な話だし、私の好きな一昔前のイギリスのノスタルジックな雰囲気も全くないしお貴族様な生活も出てこないけれど、登場人物達の勢いのおかげで読み終わるとまぁ楽しかったかな、そう感じてしまう話。殺人を犯したと思い込まされ、手に洗っても洗っても落ちない血のしみのついたマクベス夫人に仕立て上げられたクリスティ版オフィーリアは、ついさっき河でおぼれてましたみたいな当世風の小汚いファッションに身を包み、精神に問題がありそうな放心状態でつったってる肉体的魅力のない、初対面の相手に「年取りすぎてる」とか暴言はいちゃうシェイクスピアもびっくりな少女。そしてクリスティ版なのでもちろん最後は王子様とハッピーエンド、キューピッドはポアロさんです。年を取りすぎとの評も撤回してもらえて、若い女の子にキスもされてポアロさんもハッピーエンド、良かったね。


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