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【ドラマ】名探偵ポワロ『死との約束』 ―ポワロ物じゃなくてもいいんじゃない…?

『死との約束』

冒頭から、えっ?なんで発掘?これ『死との約束』だよね、というかこれ本当に「名探偵ポアロ」だよね?いややっぱりインディージョーンズかハムナプトラか?ん?(どっちも見たことないけど)と言いたくなるぐらいの一大お宝発見スペクタクル感と素晴らしい映像美。どこの発掘映画だよ、これがドラマとは…。

もう話は原作と全然違いますね。まずあの一家、父親生きてるし、母親は刑務所看守じゃなくてウォール街の重鎮みたいになってるし、レノックスは独身でしかも異母兄弟になっている。さらにウェストホルム卿夫人はPTAおばさん的な周りに煙たがれ代議士だったのが、旅行作家のカッコイイ女性になってなんとラクダに乗って登場w さらにはシスターやら乳母やら付け加わって全く別の人間模様に。登場人物で大きく設定が変わっていないのは…サラ・キングぐらい?(婚約破棄の傷心旅行設定はなくなっていましたが)。そして奴隷商人ってなんだ、死神ってどっから出てきた!



とりあえずあらすじはNHKオンラインより引用。

ポワロが訪れた遺跡発掘現場で起きた殺人事件。意外な犯人の正体とは?

シリアに旅行に出かけたポワロは、遺跡発掘をしているボイントンとその家族に出会う。夫人は金融街では知られた大物でばく大な財産を持ち、性格は尊大で、家族はいつも夫人の顔色をうかがっていた。ボイントン一家とともに発掘の見学に向かったのは、ポワロ、ボイントンの前妻の息子、医師、シスターと、途中から旅行作家の女性も参加する。その現場で殺人事件が起きる。


ハムナプトラか!と思ったらジェラール医師役のジョン・ハナは本当にハムナプトラに出ていたようで。私には同じくアガサ・クリスティ原作のマクイーワン版「ミス・マープル」の「パディントン発4時50分」のキャンベル警部役の方がなじみ深い。今作は新旧の「ミス・マープル」にでていた役者さんが多いですね。ボイントン夫人はなんとヒクソン版「ミス・マープル」のグリゼルダ、全然わからんかった。今作のぴか一ジニーちゃんに次ぐ美人どころのサラ・キングは、なんとマクイーワン版「ミス・マープル」の『牧師館の殺人』に出ていたあのプニプニのレティスではないですか!ボインボインで可愛い可愛い書いていたレティスだ~。相変わらず可愛い。

 ⇒関連エントリー:【ドラマ】『牧師館の殺人』―ミス・マープル不倫設定は蛇足

⇒原作感想はこちら:【本】『死との約束 』 ―制限時間24時間で事件を解決せよ
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

シェムリアップ アンコール遺跡 ベンメリア

話が全然違うので、原作とどこが違うかも書ききれないのですが、大きく言って登場人物の設定、動機、犯行方法、そしてポワロの推理方法が異なります。同じなのは、犯人がウェストホルム卿夫人であることぐらい。

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原作では、上で書いた通り子ども達は孤児ではなく夫の連れ子で、夫はだいぶ前に死んでしまったといいう設定。なので実はもう一人引き取った孤児がいたんだよ…というミスリードもなく、そして犯人の動機ももちろん違ってきます。ドラマでは、もう一人虐待されていた子供が…からの実際は子供を救うために生みの母親が父親と共謀して殺したというストーリーでしたが、原作では、サディストの継母による精神的DVに苦しめられる子供たちをクローズアップしつつも、彼女にとらえられた次の獲物が逆襲した、子どもたち関係なかった、という話でした。つまり動機は自分の身・立場を守るためです。

ボイントン夫人はドラマは自身では直接手は下さないものの暴力に訴えたDV母でしたが、原作では暴力で支配するのではなく精神的に支配し操る、じっとりとからめとる蜘蛛のような人物像。別にどちらがより酷いというものでもありませんが。

精神的なサディストで支配欲・権力への欲望の塊である、アメリカの刑務所の女看守も務めた人間が、あれだけ酔いしれた権力も旅先では単なるちっぽけな1家庭の支配者でしかなかったことに気づいてしまう。そうした心理的転換期におあつらえ向きに次の獲物が目の前に飛び込んでくる。ホテルで偶然見かけた女、今ではイギリスで代議士として一定の地位を築いている人間がかつてアメリカで服役していた犯罪者であることを見抜き、次のターゲットに定めたわけです。このままでは、強請・タカリをされるどころか、さんさんなぶり苦しめられた後に破滅に追い込まれる、その前に、ということでウェストホルム卿夫人が心臓麻痺に見せかけて注射器で殺す。単独犯です。もちろんジニーの親でもなく、ジェラール医師と出来てもおらず。

ドラマでは繰り返される子ども時代の肉体的な虐待場面がとても胸糞悪いですが、一方で「私は決して忘れませんよ、どんな行為も、どんな名前も、どんな顔も」と呪いをかけるよう言った原作のボイントン夫人と違ってドラマ版ボイントン夫人は元メイドの顔すら忘れちゃったり夫にはデレデレだったり。彼女の内面が単純に意地の悪い恐ろしい人程度の描かれ方なので、なんとなく全体的に怖さが半減。原作で大きなポイントを占めたボイントン夫人の人物像(洒落じゃなく)も、ドラマ版ではそれを元に推理されなかったのでいまいちクローズアップされず。ここが大きな違いかも。推理の仕方にポアロらしさがないのです。

原作では、あれだけ子供たちに自由を与えず支配下に置くことに歓びを感じていたボイントン夫人が、なぜその日に限って家族に自由を与え一人で崖の洞窟に残ったか(⇒新たな獲物を見つけたのでそちらを料理するため)、そして「私は決して忘れませんよ」の言葉、これらから夫人の心理を推理し、また何の現代的捜査手段もないところで起こりなおかつ時間が24時間しかないという制限の中、関係者にひたすらしゃべらせ自然とボロを出させることから真実を導き出すというとてもポアロらしい推理方法で解決へ導きます。一方ドラマだと、いまいちどうやってポワロが真実に気づいたのかわからん。蝋とかモルヒネとか出生記録とかの物的証拠だけなのかな。それだと、これがポワロ物のストーリーである必要があったのかと思ってしまうんですよね。

クリスティ作品は読んでいて後味悪いものがも結構多くてそこが好きな所でもあるので、この話の後味の悪さ自体は嫌いではないです。ただクリスティの作品の後味の悪さは、『春にして君を離れ』みたいないろいろなことが起こって人間の醜悪な部分がさらけ出され、しかもそのまま何一つ変わらず変われずに人は生きていくよ、みたいな突き放した視点の虚無感ある話な気がするので、こんな風に死んだり誰かがひどい目にあわされたり系の後味の悪さとはまた別。全体的にクリスティっぽくない雰囲気なのも相まって、なんか「名探偵ポアロ」としてみると違和感バリバリ。

ただ名探偵ポワロ物として考えなかったら、それなりに面白いと言えなくもないかな~。なにより映像が素晴らしい。いろいろ混ぜすぎててとっ散らかってたけど、原作よりテーマ性のある話にはなっていたと思う。ポワロとジェラール医師がそれぞれジニーにいったラストの言葉、癒すことのできない傷はない、そう信じ続けること、と言う言葉と、生きてさえいれば、いつか楽しい日がきっとくる、という言葉は同じ思いが込められています。ボイントン夫人の内面描写も削り気味にし、犯人も全然関係ない他人ではなく実の親に変更したのも、多分虐げられた子どもたちの傷とそこからの回復への希望のストーリーに重点を置いたためなのでしょう。ただ、そうであるならば父親の「生きていれば…略」というセリフ、本当にそう伝えたいなら自殺しながら言うんじゃなくて、絞首刑になるならなるまでの残り少ない日を最後まで生きればいいのに、ジニーに手紙でも書きながら。こんな伝え方じゃ全然説得力ないわ。自分達がちゃんと育てられない状況で無責任に子供作ってあんなところに娘おいていったくせに、継母を娘をひどい目に合わせ虐待しているからってじわじわと焼き殺し、自分たちはお薬で楽に自殺ですか。ここはもうちょっとなんとかならなかったものか。

細かい点を見ると、いろいろ気になる点も無くはないです。そもそも原作も原作で、ドラマ版では可愛いジニーちゃんが主役級の扱いでしたが原作ではどちらかというとヒロインはサラ・キング、ジニーは子供たちの内の一人的な扱いで、笑いながらハンカチ引き裂いたりアナスタシア的妄想入っていたりでだいぶキており、でも最終的にそれを活かして女優として大成功、なんのこっちゃ。

トンでもエピソードはドラマも負けておらず、奴隷商人がテントに忍び込んで袋被せてきたとか、そんないかにもヘイスティングズが喜びそうな荒唐無稽な設定、絶対何か隠すために嘘ついて言っているんだろうと思ったら本当に奴隷商人いたし…。ボイントン卿なんて、「本物だ!」とか言いながら大昔の物であるはずの頭蓋骨をむんずっと掴んで、歯ギューギュー押し込んでるし!本物だったらそんな扱いしたら壊れちゃうでしょ!あんまドラマの人物設定覚えないで見てたからボイントン卿はどっかの大学のちゃんとした考古学博士かなんかと思い込んでいたけど、そんな何千年前の骨とそこらへんで作ったレプリカの区別もつかない徳川埋蔵金系だったとは。傷心のパパはそのまま退場。

ポワロさんにいたっては冒頭から、死神の寓話を博士の後を継いで突然語りだしちゃったり、「誰か~」の悲鳴に「はじまったか…!」とか決め顔しっちゃったりといつからそんな預言者チックなポジションに。…いやこれまでも降霊術とかなんかノリノリでやってはいましたけれども。最後にはジニーに素敵な言葉を残し別れを告げた後、鳩と共に「はっ!消えた…」みたいな。ハーリ・クィンか。この小太りの素敵な妖精さん的演出はいったいなんぞ…と思いつつ、あのそっと帽子に手を当てるシルエットの印象深さにうっとり。

話の内容はモヤッとする点も多々あるので、英語バージョンにして単なる映像として流そうかな。そんな感じで原作もドラマもわりとどっちも不満はあるものの、原作『死との約束』のドラマ化、名探偵ポワロ物の一つとして見ずに、単品でこういう2時間推理ドラマとして見れはそれなりに見ごたえあるかもしれない。とにかくあまりに映像が綺麗すぎるので、話はさておき繰り返して見ると思う。


話は変わりますが、クリスマスにはクリスティーを、ということで早川文庫のキャンペーンでちょうど今amazon等のクリスティー作品全点半額セールが開催されています。電子書籍のみで紙の本は対象外なのですが、クリスマスからお正月にかけて101点全部半額。


この作品の原作はそんなおすすめじゃないですがw、もしドラマ派でまだ他の原作あまり読んだことがない方がいたら、この機会にぜひ!セールは1/5まで。

 ⇒関連エントリー:AmazonのKindle版等でアガサ・クリスティ作品電子書籍が半額セールに!クリスマスにはクリスティを



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