旅行鞄にクリスティ

バッグにアガサ・クリスティをつめて旅に出ることを一番のご褒美に、日常の中でコスメやファッションなど心躍るものを探すブログです


【原作】『オリエント急行の殺人(オリエント急行殺人事件)』(ネタバレあり)-探偵側で、犯人側で(アガサ・クリスティ著/ポアロ)



『オリエント急行の殺人』☆☆☆☆☆

ついに来ました、『オリエント急行の殺人』です(ドラマ版感想はこちら)。感想、めっちゃ長いよ!この話は以前個人的アガサ・クリスティ作品の中で好きな話ランキングで3位にあげた話で、今は『ナイルに死す』が落ちた分上がって1位か2位かぐらい好きな話です。『アクロイド殺し』の感想時も書きましたが、絶対にネタバレを食らわずに読みたい話であり、かつその衝撃・有名さゆえに人生の内で読む前にネタバレを食わらずにはいられない話の1・2を争う話でもあります。なので、もし万が一、この話のラストを知らずにこの記事を読んでいる人がいたら、速攻PC閉じて本屋行って買って読んでください。私に感謝すること間違いなしです。

ちなみに、私はこの『オリエント急行の殺人』についてはハヤカワ版の他に新潮文庫版も持っています。別に好きな話だから全部揃えて訳を比べてやろうとかいう高尚な理由ではなく、なんでか知りませんが2冊になってしまったもの。そしてどちらかというと新潮文庫版の方が好きです。人物の口調、とくにおそるべきドラゴミロフ公爵夫人とかうら若き乙女のアンドレニ伯爵夫人とかの口調がそれぞれに合っているし、また地の文の描写も、例えばアンドレニ伯爵夫人の「長いホルダーで煙草をふかしていた。爪が真っ赤にマニキュアされている。」(ハヤカワ版)という文も「長いパイプで巻きたばこを喫っている手の、真っ赤にマニキュアした爪が可愛い。」(新潮文庫)みたいに、なんか艶っぽい文章なんですよ。なので、基本的にはクリスティ作品はハヤカワ版で読むことが多いのですが、この作品に関しては新潮文庫版で読み返すことが多いです。ただ新潮文庫版は絶版になっているのかな?古本屋等で見かけたら、ぜひ。

さて、『アクロイド殺し』は大丈夫だった私も、こちらはご多聞に漏れずネタを知ってしまってから読んだ口です。そしてネタバレ喰らって読んだのにも関わらず、この作品は個人的クリスティの好きな作品の上位を保っています。なぜかというと、この話は2読目からが本番だから。

とりあえずあらすじをwikiより引用。この作品が発表される数年前に、実際に起こった飛行家リンドバーグの息子が誘拐され殺された事件を参考にしたとされています。

中東での仕事を終えたポアロは、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗り、ヨーロッパへの帰途に就く。一等車両にはポアロの他、様々な職業、国の出身者が乗り合わせ、季節外れの満席となっていた。その中の1人、アメリカの富豪サミュエル・ラチェットがポアロを知り、話しかけてくる。彼は脅迫状を受け取っており、身の危険を感じてポアロに護衛を依頼する。しかしポアロは興味を持たず、またラチェットに良い印象を持たず、これを断る。
列車がヴィンコヴツィとブロドの間で積雪による吹き溜まりに突っ込み立ち往生する中、翌朝、ラチェットの死体が彼の寝室で発見される。彼は、何らかの刃物により全身を12か所に渡ってメッタ刺しにされて殺害されていた。


この話のどこが好きって、まずは国際列車での殺人なので海外旅行物、そして海外旅行物につきものの乗客の旅の持ち物検査がある!!!というバカっぽいことを以前『ナイルに死す』の感想でも書いた気がするw 私のアガサ・クリスティ作品を読む楽しみとしては、英国流上流社会の生活ぶりを垣間見るというところが大きな部分を占めています。持ち物といえばクリスティ作品でお決まりの、お貴族様のイニシャルが掘られた金のピルケースや象牙のパイプに、モロッコ皮の小物入れ、レースのハンカチ等々…ああ、素敵。この作品にももちろん涎もののアイテムが沢山登場。特に好きなシーンは、小間使いのヒルガード・シュミットが、事件現場に残されていた刺繍の入った白麻のレースのハンカチをあなたの物かと見せられ、「とんでもない、これは貴婦人のハンカチでございます」と答えるところなんかとても好きですw 貴婦人のハンカチ…素敵な響き

そうそうちょっと脱線しますが、私が勝手に「貴婦人のハンカチ」と読んでいるmyハンカチがあります。近沢レースのこれ。

近沢レース

すんごい綺麗でしょう。レースがひらひらっとして、とっても素敵なんですよ。でもレースの面積もそこまで大きくないし、しかもタオル地だから(アイロンかけなくていいし)実用的、しかもお手ごろ価格…実用やら値段云々言っている時点でお前は貴婦人ではない、ということは見ないふりをして頂きたい。自己満足だからいいんです。これを持っているととても優雅な気分になれるmy貴婦人ハンカチでございますの、ほほほ。それにこれぐらいならハバード夫人に、「鼻をかむのにこんなハンカチが何の役にたつんでしょう」とか言われないし!(かまないけど。) ちなみに、近沢レースには麻のレースのハンカチもちゃんとある。イニシャルみたいなのも入ってるし、これぞドラゴミロフ公爵夫人のハンカチ。

近沢レースのハンカチ


クリスティ作品を見ていると、素敵な家具や持ち物が出てきて物欲が刺激されて困りますね。そういえば前にミス・マープルの方で載せたこれ↓とかもそうだった。すぐ影響される。

ペーパー・ナイフ レターオープナー

Rio レターオープナー

朝食の席に、メイドや執事が手紙をお盆に載せて持って来るというお決まりのシーンに付き物のやつ、ペーパーナイフ、レターオープナーです。憧れてつい買ってしまいました。手紙持ってきてくれるメイドもいないし、私に届く手紙はDMぐらいだけれども!いいの、自分が優雅な気分に浸れれば。

そんな自己満足の英国的生活ごっこのお楽しみはさておき、以下は話の筋に突っ込んだ感想。完全ネタバレなので、繰り返しになりますが、まだ話を知らない人は絶対に読まないでね!絶対だぞ!

⇒ドラマ感想はこちら:【ドラマ】名探偵ポワロ『オリエント急行の殺人』、そして名探偵ポワロシリーズについて
アガサ・クリスティ 作品・感想一覧はこちら

以下ネタバレ

アイスホテル
※写真は全然関係ないけど、以前行ったスウェーデンのアイスホテル

さて、どこから書いて良いのやら、いろいろ胸に去来することがありすぎなのですが、話の組み立てとしては殺人事件が1件起こるのみ、容疑者を一人ひとり尋問して、手荷物調べて、さてラスト真相はこうですよで終わり。あたらめて振り返るととても単調な話です。なので、ふと考えると "別にそこまで傑作という話でもないかも" と思うことがあります。しかしそう思って改め読み直すと、う~ん、やっぱりこれはすごい!と思ってしまう。とにもかくにも読み終わった後に色々な思いがずっと残り、折に触れて思い出す話です。

まずは舞台設定が素晴らしいよね。いつ止むともわからない大雪の中立ち往生してしまう異国を走る豪華国際列車、閉じ込められた乗客、この中に犯人がいる…!それだけでドキドキワクワク(?)してしまう設定。少し『死との約束 』と似ています。そちらと同様に外部と連絡は一切取れず、近代的な捜査方法も身元照会も何もできず、限られた時間でほぼ証言のみから推理しなければならない。そして『死との約束 』ではお互いがやったと勘違いした被疑者達がお互いにかばい合って捜査を混乱させましたが、今回のはずっと前から冷静な頭脳によって綿密に計画された殺人、しかも最後にわかることになんと敵は乗客全員です。身代金目当てで誘拐され殺された幼児デイジー・アームストロング、およびその事件が元で死んでしまった人達の遺族・関係者が、復讐のために何年もかけて計画し誘拐犯と同じ列車に乗り込み裁きを下したのです。もうね、これは本当にネタバレを知らずに読みたかった!これを何の前情報もなく読めた幸運な人は、どんな感想を持ったんだろうか。初読から何年たっても、もしそんな風に読めたらと思わずにはいられないインパクトのある設定です。

そして乗客たちが目くらましのためにばらまいた嘘の手がかり・嘘の容疑者の一人である赤いガウンを着た女、いったいどこに行ってしまったのか見当もつかめず煙に巻かれるポワロ、煙草を吸って頭を整理しようと鞄を開けた一番上に、見せつけるかのように入れられた赤いガウン。挑戦か、受けてたとう。もうこのシーンは恰好良すぎますね。灰色の脳細胞をもった天才的な探偵と、同じ悲劇に繋がれた12人の私的陪審員たちの頭脳対決です。食堂車にこもったポアロたち捜査陣営と、直接は描かれませんが客室側で徐々に暴かれていく事態に警戒を強め裏で連携し対処していく犯人達の攻防。

乗客全員が犯人だったとわかったラスト大詰め、物語のキーマンとなる大女優リンダ・アーデンの登場です。ここでドラマは最高潮を迎え、そしてポアロがなんと犯人を見逃すという驚きの選択をしたところで(しかも何の迷いなく)唐突に幕を閉じます。劇的な幕切れ。そしてこの幕切れは始まりでもあり。被害者はこれまで金のために平気で何人も子供を殺してきた、法の裁きを汚い手を使って逃れたことが確定している極悪人。よって犯人たちのやったことは正義であり裁きが訪れたという思いと同時に、しかしこれは紛れもない私刑であり、これを見逃してしまって本当にいいのか、という思い。おそらく飛行家リンドバーグの息子誘拐事件に対するクリスティ自身の考えが反映したラストになっているのでしょうが、読者にとっては大きな問題が問いかけられ、整理しきれない思いを抱えたまま2読・3読としていくここからが、この話のドラマの新たな始まりです。

暗い決意を胸に抱えて、豪華寝台列車に集まってきたかつての家族、仲間達。再読の際は、もう完全に犯人達目線ですね。この本で彼らについて描かれている描写は、ほぼ全て演技によるものです。なので彼らの詳細な心情を表すような描写はほとんどありません。綿密に計画され、それぞれの役割・人物像を演じている。それだからこそ彼らがこの時に何を思っていたか、描かれていない部分に想像がかきたてられます。

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絶対にこの事件・被害者と繋がるわけがないと思っていたデイジー・アームストロングの名前がポアロの口から出てきた時の驚きと恐怖、そして小さな小さなほころびをポアロに徐々に指摘される中、自分の・そして他の人のためにも演技をやり通さなければならないプレッシャー、自分なら耐えられるだろうか。いやそれ以前に雪で立ち往生して綿密な計画がダメになった時の狼狽、目まぐるしく計画を変更させる頭脳と、そしておそらくそこで犯人皆の頭に一度は浮かんだであろう、殺人をやめるべきかという迷い。そしてもっと前、何年もかけてラチェットの殺人計画を立てている時、いやそもそもデイジーが殺された時…と彼らの一瞬、そして長年の思いを想像せずにはいられません。

自分が彼らだったらどうする?そしてポアロだったら?

どちらの立場についても私は迷いがあって読むたびにぐるぐると色々な思いが駆け巡ります。この作品でもし私がポアロの立場だったら、本当に読むたびに悩みますがやはり犯人を警察に差し出すと思います。ラチェットに関しては殺されてもまったく何とも思いませんが、しかし今回の犯人たちのやったことも殺人には変わりなく、法による線引きを超えて自己判断によって人の命を奪うことは、凶悪犯ラチェットが見逃され今後また殺人が行われる可能性以上に危険なことだと思うからです。なおそもそもの前提となる法による殺人である死刑制度について、個人的には賛成ですがそういう思想について論じる気はさらさらないので省略。

犯人側(誘拐事件の被害者側)に立ったとしたら、と考えたところ、正直な所話に無理がなくもないとも感じます。冷たい言い方になってしまいますが、子守や家庭教師、運転手で愛着があったとしても、他人の子供が殺されたからといってその犯人を自らの手を下して殺すことはまずないと思う。個人的には2親等ぐらいまでの家族が殺されたなら今回の復讐劇にもかなり共感できますが、いくら一緒に暮らしていたとしても他人のためにはそこまではしません。でも家族だけで列車1車両占めるのはいったいどんな大家族だよとなってしまうので、こういう登場人物になるのもしょうがない。そんな冷たい感想を持つ私でもこれだけのめり込んで想像してしまうのは、多くの人が持つであろう極悪な殺人犯への怒りをこの作品では共有出来るからなんでしょう。

もしリンダ・アーデンの立場なら、”今なら疑われずに殺せる”という瞬間が訪れれば魔がさすように殺してしまうかもしれません。でも今回のように計画的に殺すことは私ならしないと思う。死、そして殺す、ということを無条件に忌避する本能のような物があり、どんなに死んでくれと願い死んで当然だと思っても、その人間がどんな人物であれまだ鼓動のある体に実際にナイフを突き刺すことには相当な抵抗があります。そしてこの抵抗を越えて人を殺してしまった人はどうしても受け入れられないし許せない。そしてどうしても許せないから人を殺したような極悪人は殺されてしまえと願う、この矛盾。リンチはダメだ、殺人犯と同じだ、そう思ってもやはりラチェットが殺されたことに対し、憐れみや怒りよりもまず、正義という言葉が浮かんでしまうのが現実で。

なんででしょうね。死・殺人に関してはとても難しく、一貫した立場をとることが出来ません。ちなみに私は現実においてはずっと昔から一貫して死刑は賛成、私刑は反対です。そしてなぜか今回最後ポアロの下した決断を、とても嬉しく思っている。こんだけ長々語ってきたこと、全部吹っ飛ばすかのような感想ですな。現実世界では極悪人であっても私刑で裁きを与えるのは許されない、そして法の裁きを逃れた極悪人も絶対に許すことができない、だからせめて話の中だけでも天罰を!という感じなんでしょうか。我ながら支離滅裂だわ。

…なんかやたら長くなってしまいました。当初ミス・マープルに引き続きポアロ作品も年代順に読み直して書いていこうと始めたブログ感想ですが、順に書き出し『オリエント急行の殺人』まできたところで、これは考えることがありすぎてとっても書くのに時間がかるし、有名な話だし既にいろんな人によって素晴らしい感想が溢れているというプレッシャーのようなものも有り(?)、なかなか書くのが気が進まずに以降すっかり感想が止まってしまっていました。ドラマに合わせて放送順にという名目でとりあえず逃げて感想書きを再開しましたが、ついに来たこの作品、やっぱり長くなりました。まぁ上半分はどうでもいい話ですがw いったい何時間かけて書いているんだか。初めて読んでから何年も経っているのに、まだまだ沸いて出てくる思い、きりがないのでこの辺で。




 
       
 
         
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