旅行鞄にクリスティ

日々のあれこれを忘れ、手の届く贅沢で自分を甘やかし明日への活力を養うブログです。バッグにアガサ・クリスティを詰めて行く海外旅行が最大のご褒美。


【本】ミス・マープル『魔術の殺人』 ― …で?と言いたくなる話(アガサ・クリスティ著)



『魔術の殺人』☆★★★★

いやもう、誰が誰やら。出てくるのは、ミス・マープルの少女時代の友人、キャリイ・ルイズとその家族がメイン。キャリイ・ルイズは2回、いや違った3回結婚していて、それぞれの夫との間に連れ子やら養子やら実子やらがいてしかもそいつらが未だにキャリイ・ルイズの家に普通に出入りしているし、主な登場人物もルイズやらルースやらルイスやら似ている名前でなんで揃いもそろってルとスが付くんじゃ!もうやめて~!という話です。

そして揃いも揃ってなんか性格がいや~な感じ。クリスティの描く人物は紋切り型と言われるけれど、男とお金大好きなおツムの軽そうな女性も、そんな人に想い人をとられてしまう教養はあるが地味な女性も、あけすけな異国風美女もお馬鹿なメイドも女たらしの美男も堅物刑事も偏屈なジジイも、これら良く出てくるタイプは個人的には結構好きな人物像が多いのですが、今回でてきたのはじっとりと根暗でいかにも友達いなそうな不愉快な人ばかりでした。

あらすじ―

ミス・マープルは、寄宿学校時代の古い友人ルースに”妹のキャリイ・ルイズのまわりに何か良くないことがあるが何が悪いのか良くわからない、確かめに行って欲しい”と頼まれる。ルースの直感だけをもとに、キャリイ・ルイズの屋敷へ乗り込むことにしたマープル。大金持ちのキャリイ・ルイズは、3度目の結婚相手で理想病にとりつかれたルイス・セロコールドと共に、屋敷を未成年犯罪者の更生施設に改造し未成年犯罪者の更生に力を注いでいた。


ということで上記あらすじから予想されるように、こういう胡散臭いNPOやらでよく見かけるいかにもなタイプの思想家や精神科医やらが登場人物です。登場人物が多く一人一人掘り下げが無いため、なんか結果を出せず口先ばっかの人達ばかりがたくさん出てきて的外れなこと言って最後ドタバタして終了、みたいな話でした。う~ん。キャリイ・ルイズは、もうちょっと掘り下げがあったらもっと魅力が伝わったような気がするので、なんかもったいない話でした。

この話で一番ダメなのは犯行そのものでしょうか。驚きもスリルも謎もなく、魔術(魔法というよりマジック系の意味と思われる)の殺人と言いながらマジックやトリックと思える程の犯行でもないのが致命的か。舞台に見立ててマジックの様な殺人を、という材料は面白いと思うんだけどな、うまく料理できていない感。そして原題を見たら”They Do It with Mirrors”だった。魔術なんて書いてないじゃん!なんでこんな邦題なんだ?

かなり面白かったミス・マープル物長編の『予告殺人』の後がこれか…、正直大分見劣りします。『予告殺人』が1950年、『魔術の殺人』が1952年、『葬儀を終えて』が1953年、50年代のクリスティ作品は振り幅が大きいというか、玉石混合のイメージです。そういえば、『予告殺人』で出てきた子どもがピップとエンマ、『魔術の殺人』がピパ、愛称だとは思いますが、何か不思議な名前が続くな。




アガサ・クリスティの作品の話をする時、『魔術の殺人』は誰の口からも少しも話題にすらならない作品です。もんのすごい酷いwとか、駄作とか卑怯とかでもなく、一度読んで「…で?」と思って、「印象に残らん」で存在すら忘れ去られる類の話。今は「個人的ミス・マープル読み返しキャンペーン中」だから読んだけれど、次に読むのは何年後かな。また10年ぐらい読まないんだろうな。ミス・マープルの少女時代がちょっとだけ分かるのが貴重か。


そんなもの流行みたいなものだわ、服装の流行とちっとも変らないのよ。(中略)そうよ、博愛主義だって流行なのよ。
――ルース・ヴァン・ライドック


   ⇒ヒクソン版『魔術の殺人』視聴感想はこちら参照
   ⇒マッケンジー版『魔術の殺人』視聴感はこちら参照
   ⇒アガサ・クリスティ 作品・感想一覧


by カエレバ

 
       
 
         
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