旅行鞄にクリスティ

日々のあれこれを忘れ、手の届く贅沢で自分を甘やかし明日への活力を養うブログです。バッグにアガサ・クリスティを詰めて行く海外旅行が最大のご褒美。


【原作感想】『ポアロとグリーンショアの阿房宮』―どうかこの作品からクリスティを読み始める人がいませんように



『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 ☆☆☆★★

非常に久しぶりにアガサ・クリスティの感想です。箱根で本物のオリエント急行に乗ってティータイムしてきたり、ポアロトートを作ったりとクリスティネタはちょこちょこ書いてはいましたが、作品の感想はドラマ版の『三幕の殺人』以来なので、2年ぶり。

2年ぶりの感想は、死後40年たって刊行されたクリスティの新刊 『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 です。本の感想に行きつくまでにダラダラと余計なこと書いているので、興味ない人は前半はすっ飛ばして目次から後半に飛んでください。そして物語自体の感想はとても短いです。

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クリスティの40年ぶりの新刊により、最後の1冊が最後の2冊になったので…


『ポアロとグリーンショアの阿房宮』を買ったそもそもの発端は、NHKのBSプレミアムでアガサ・クリスティーの『検察側の証人』が放送されたこと。(※『検察側の証人』はもう終わりましたが、『無実はさいなむ』がラスト1話残っていて、そして『ABC殺人事件』 は7/13~でまだ間に合います!)

せっかくなので『検察側の証人』を読み返そうとしたら、本棚にない。絶対読んだはず…と思っていましたが、どうやら記憶がほかの話と混ざっていたようです。


ということでしょうがなく本屋さんに買いに行ったところ(私は電子書籍派ではなく本派です)『検察側の証人』がおいておらず。しかし病院の待ち時間潰しもかねて読むつもりだったので、何も買わないわけにはいかないんだ…!ということで思い出したのが、まだ読んでいないものが2冊あること。

私は、アガサ・クリスティ作品のうちでポアロとミス・マープル物に関しては未読が『クリスマス・プディングの冒険』のみとなった時に、突然”これ読み終わったら全部終わりなんだ…ともったいなくなり、10年ぐらいラスト1冊残したままでいました。しかし4年前になんとアガサ・クリスティーの死後40年近く経ってから新刊が発見されたとの報が!

とある事情で刊行されなかった中編『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 が、発見されたというのです。

もうこの先増えることはないはずのポアロ物に、新刊が…!そしてもうこれで最後の1冊ではなくなったんだわ、1冊読んでもまだ1冊残ってるんだ…!

ということでどちらかを読もうと思っていたのですが、どっちにするかがなかなか決まらず。『クリスマス・プディングの冒険』は未読ではあったものの、早川文庫ではない文庫本で大半の収録作品は読んでしまっており純粋な未読ではないこと、そして『ポアロとグリーンショアの阿房宮 』はすでに読んだ長編『死者の過ち』の原型であってこちらも純粋な未読ではない、というのでどちらもなんとも選びづらい。どっちを選べばいいのやら…ということをブログに書いたのがもう4年も前のことですね↓

【関連エントリー】

ポアロとグリーンショウ氏の阿房宮?…グリーンショアの阿房宮??…ポワロ新作ですと!? - エルキュール・ポアロ(ポワロ)

クリスティネタでネットを徘徊していて、最近やたらと目にしていた「グリーンショアの阿房宮」の文字。はいはい、『クリスマス・プディングの冒険』に収録されているやつね、この間12月にNHKのミス・マープルで放送されたしね~と思ってスルーしていたのですが、なんとポアロ物の新作が発売されていた!ポアロとグリーンショアの阿房...


そんな感じで決められず、ズルズルと悩んでそしてつまりはそのまま忘れ去ったわけです。

…ということを本屋の棚の前で思い出し、残りの2冊の内なぜ今回『ポアロとグリーンショアの阿房宮』を買ったかというと、こちらしか本屋に置いていなかったからです。あくまでも消去法。いいの、そうでもないとなかなか読むきっかけにならなかったから。

しかしこんな薄い(1cmもない)のに640円もとるんですかい!早川書房め!


そう毒づきながら心躍らせて購入。新刊ですぞ新刊。素敵な響き。

前置きが長いですね。なぜこんな長々と書いているかと言えば、この話は上記の通り『死者のあやまち』の原型なので、ほぼ書く感想がないからですw


ポアロとグリーンショアの阿房宮の感想


この話の感想をあえて言うならば、何も知らず今作から読み始める人がいませんように…、という作品。そんなことをお祈りしたのは『ビッグ4』以来です。

いや、面白くないわけではありません。決して、あまりのトンデモ設定に読み進めるのが非常につらく何かの修行のようだったビッグ4的理由でそんなお祈りをしたわけではない。

『ポアロとグリーンショアの阿房宮』はギュッと濃縮された中編で面白いのですが、でも長編『死者のあやまち』はもっと面白くなって読み応えたっぷりなので、こっちから読んでしまうのはあまりにもったいない。私だったら、『ポアロとグリーンショアの阿房宮』→『死者のあやまち』の順で読んでしまったらショックを受けると思う。

しかもこの本は短編集ではなく中編1個(短編といってもいいかも)、あとはおまけでいろいろな関係者(イギリス版の表紙をずっと描いていた人やクリスティの孫、『アガサ・クリスティーの秘密ノート』の作者等)の寄せ書きになっています。

なので知らない人が読んだら、推理小説買ったはずなのに長々とよくわからんおじさんの解説を2つも読まされて、やっと小説始まったと思ったら中編1個、終わったらまたよくわからん人の解説2つで、結局作品は120ページしかないのか!となること請け合いです。

ポアロとグリーンショアの阿房宮の感想ブログ

8ミリぐらいしかない…。

クリスティにそれなりになじみのある人が読んでも、寄せ書き部分はいまいちよくわからん。イラストレーターの人の寄せ書きは、そもそも日本と表紙が違うから話の内容に乗り切れない。そしてその語りを読んでいると微妙に、クリスティ作品でよく出てくる昔話と自慢話をやたら長々と繰り返し繰り返ししている退役軍人の話を聞いている気分が味わえるようなw

そんなことも思いつつも、寄せ書き・解説はそれなりにおもしろい。クリスティファンがいちば~ん気になる点と言えば、「ポアロとグリーンショアの阿房宮」という題名ではないでしょうか。そう、「グリーンショウ氏の阿房宮」という短編が、すでに別にあるのです。しかもこちらはミス・マープル物。

ここら辺の理由も、よくわからないおじさんの一人が詳しく解説してくれています。

話の内容は、ミス・マープルの方とは全く関係ありません。要は、当初は「ポアロとグリーンショアの阿房宮」というタイトルの中篇を雑誌へ掲載し、その売り上げを所縁のある教会に寄付する契約をしていた。しかし話が短すぎて雑誌へ掲載できなかった。なので、法的な理由から同じような名前の全く別の作品「グリーンショウ氏の阿房宮」を再度教会のために書いてそちらを載せた。

そして載せられなかった「ポアロとグリーンショアの阿房宮」は、長篇にできるアイデアが詰まっているとのことで、のちに『死者のあやまち』として刊行した、という流れのようです。


それがわかると、当時長さが足りなくて雑誌へも載せれなかった中篇を、現代においていろいろ足してどうにか本として刊行しているのが面白いですね。だから前書きに小説に関係ないことがダラダラと書いてあるわけか、まるでこの記事のようだわ。



※ここから下は『死者の過ち』を読んだことがない人にはネタバレはありませんが、読んだことがある人には『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 のネタバレになるであろう言及があるのでご注意を※



小説としては、『死者のあやまち』と比較して設定も動機も犯人も大きな変更点はありません。なので話の筋に関する感想は『死者のあやまち』時に書いたのと変わらないので省きます↓

【本】『死者のあまやち』 (アガサ・クリスティ/ポアロ)―童話のような幸せな結末はなかった - エルキュール・ポアロ(ポワロ)

『死者のあやまち』☆☆☆☆★ 今週末にNHKで再放送される「名探偵ポワロ」に合わせて、『死者のあやまち』の再読です(ドラマ版『死者のあやまち』の感想はリンク先参照)。美しいイギリスの田舎でお屋敷で行われる、なんとなくノスタルジックなお祭り。そんな童話や夢の世界のような喧噪の中で起こる殺人。悪い魔法にかけられたかのような雰囲気があ...


両者を比較してみると、最初からマーリーンが殺された直後の捜査まではほぼそのまま。そこから中間部分がごっそりと抜けて種明かし直前のヒントタイム(オリバ夫人との電話とブランド警部との会合のみ)に飛び、、あとはフォリアット夫人への最後の通告へと向かいます。

推理するにはそこしか必要ないということか…と、普段推理小説を読むときに全く推理をせずただの小説として読んでいる私はそこに驚いてしまう。中間部分がごっそり抜けて、それで推理が成り立つのが面白いです。私は読むときに何も考えず何も検証してないから、中間部分に沢山ヒントをちりばめてあるのかと思っていたわ。

長編にするにあたって、目くらましでいろいろな人達のあれこれを詰め込んだわけですね。解説にもあるように、どうやって話を膨らませたか、とか、創作過程がわかるというところが今作の見どころ

クリスティ作品の背景を楽しむのがこの本の存在意義、みたいなところがあるので、「クリスティってなんか長い話が多いけど、これは薄くて読みやすそうだし新刊だから、これから読んでみよう」みたいな人が出てこないことをお祈り申し上げます。



うっすい本だししかも1/4は解説なので、これが600円出して買うものなのかと聞かれたら我ながら疑問ではある。それに作品というより、『アガサ・クリスティの秘密のノート』別冊的な位置づけかも。

でも死後40年たって新刊が発表されるなんて、推理小説家らしくて素敵ではないか。既に死んでしまっている大好きな作家の新刊が読める、こんな経験ができると思っていなかった

新刊を出してくれた、それだけで私にとっては600円以上の価値があるのです…そんなちょっと良いこと風なこと言っておきながら買うまでに何年もかかっているけれど。

そうそう、この作品の舞台となったグリーンショアのお屋敷(『死者のあやまち』ではナス屋敷の名前になっています)の設定は、アガサ・クリスティが夏の休暇用に使っていた別荘のグリーンウェイをそのまま使っているようです。ドラマ版の『死者のあやまち』のロケ地で使われたお屋敷です。

この本ではそれについても、そこで実際にクリスティと過ごしていたお孫さんの解説が読める。今はナショナル・トラストに譲られて一般公開もしているので、いつかロケ地やゆかりの地巡りをしたいなぁ。

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