旅行鞄にクリスティ

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【本】『ゴルフ場殺人事件』―卒業おめでとう、ヘイスティングズ(アガサ・クリスティ著/ポアロ物)


『ゴルフ場殺人事件』☆★★★★
ポアロ物の長編としては、処女作『スタイルズ荘の怪事件』でデビューしてから、その間短編を数作挟んでの2作目の作品になります。

これね、だいぶ前に読み終わっていましたが、いまいち感想を書く気にならず。嫌いな話、というよりこれといって書くことがない。なんか、ふーん、という話。私は犯行方法やら推理面というより、その周辺の心理面での描写が好きでクリスティを読んでいるので、もともとそこらへんがあまり書かれていない初期の話はそんなに好きではありません。が、この話はそれ以前に登場人物が…('A`)←読んでてこんな感じw

とりあえずあらすじ
富豪のルノール氏からの依頼でフランスへ向かったポアロとヘイスティングズが目にしたのは、警官にかこまれたルノール氏の屋敷。氏はすでに殺害されていた。夫人の話によると、昨夜外国人風の2人組が押し入り、夫人を縛りあげた後、「秘密」のありかをはかせにルノール氏を連れ去ったという。どこかで覚えのあるような事件だと感じるポアロ。

敏腕のパリ警察のジロー刑事、そしてポアロが捜査を進める中、もう一体死体が見つかる。

アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら
⇒ドラマ版感想はこちら:【ドラマ】名探偵ポワロ『 ゴルフ場殺人事件』 ―ヘイスティングスの恋の集大成

これはポアロのライバルか?みたいな感じで登場したジロー君はしかし、めっちゃ小物臭をはなっております。性格悪く、探偵を馬鹿にし自分を有能と思い、誤った方法で捜査にまい進し、結局最後に赤っ恥をかく、なんか推理小説に出てくるバカ警察のお手本のような人物。ポアロの有能さを出したいのかもしれないけど、なんか読んでてしらけてしまう。

読んでてしらけてしまうと言えば、シンデレラ&ヘイスティングズ。この話、ヘイスティングズの生涯の伴侶となる人が出てくる、ポアロシリーズとしてはある意味大事な話ではある。その後の『カーテン』とかを考えると、感慨深いよね。でもこの話自体は、つまらん。読んでて、は?みたいな。推理小説としても、恋愛小説としても、なんか取り残され感があって読んでてぽかーんとしてしまう。



シンデレラ、まずはこの偽名からして鳥肌ものです。「名前は?」と聞かれて「シンデレラよ」と言って去っていったら、こいつ頭おかしいんじゃないかと思います。それともこれは、本国イギリスではありなんですかね。「シンデレラよ」「HAHAHA! Nice joke! 」みたいな。


以下ネタばれあり

ゴルフ場



しかもサーカスだか何だかのアクロバットの名手ですよ、ダルシベラ・シスターズですよ。…この設定は黒歴史ではないでしょうか。しかも最後はこれで犯人捕まえちゃうし。この荒唐無稽さ、ほのかにラノベ臭。
「さ、覚悟をおし!あたしの手にかかったら鋼鉄よりつよいんだからね」
なんでしょう、この決め台詞。17歳ぐらいの女の子が言うには渋すぎるようなw いちいち宣言してないで早く捕まえろよ、黄門様かよ、という感じですね。ラノベというより、お決まりのパターンにお決まりのセリフ、どちらかと言うと時代劇か。そうそう、私の読んでいる本は旧ハヤカワの田村隆一訳のものなので、今出ている物とは訳も長さも違うようです。もしかしたら、今の訳で読んだらまた全然違った感想かもしれません。



でも正直この話で頭おかしいのはシンデレラよりもヘイスティングズ。ヘイスティングズは相変わらず色ボケしていて、大真面目に馬鹿なことをしています。今回は、いつもの頭に花咲いた一目ぼれではなく(いや、それもあったけど)、本気の恋なので、本気でバカになっている。ヘイスティングズはいつも長々といろいろ言い訳だの間違った推理だのを考えていて読んでいて話が進まないのでイラッとするのですが、今回はそれに恋の言い訳みたいのも入ってくるので、イラッというのを通り越して('A`) ←こんな感じ。ヘイスティングズの悪口を言いだすと止まらなくなるので、このへんでw

ただ、お気に入りのシーンもあります。シンデレラから、今まで嘘をついていたことの懺悔の手紙をもらうところ。事件の真相よりも何よりも、シンデレラの想いが気になってしまう、ここは真剣で馬鹿な男の情けない可愛らしさが出ていて良いです。


「ね、読んでください、どうしてもあなたに読んでほしいんです」
ポアロは黙々として読んでいった。やがて顔を手紙からあげると、私の方を見た。
「あなたが心を痛めているのはどういうことなのです、ヘイスティングズ?」
こんな口調でポアロが私にたずねるなんて、まったくはじめてのことだった。あのいつもの人をからかうようなひびきはどこにもなかった。(中略)
「この手紙を読んだだけでは―あのひとが―あのひとが、このぼくのことをどう思っていてくれるのか、何もわからない!」


これに対して、「手紙の一行ごとに、書いてあるではありませんか!」と答えるポアロも良い。優しいパパ・ポアロ。よかったね。そして二人で南米で幸せに暮らして、今後作品には出てくんなよ!ということで作者から体よく追い払われて、以降出番のあまりなくなったヘイスティングズ。ここでヘイスティングズをお払い箱にしておいて正解だったと思います。これまでの調子で全作書かれたら、多分こんな読者は増えなかったんじゃないでしょうかね。



この話なんか特に、善良ながら頭の悪いパートナーと、プライドの高い無能な警察という、推理小説といわれて想像するような、お決まりの登場人物によるお決まりの的外れな会話が延々と続くので酷いもんです。もしこの話を最初に読んだら、クリスティってつまらん、なんか2番煎じというかどっかで読んだ話の継ぎはぎばっかと思っただろうな。反則すれすれの、読んだことないようなびっくりなミステリーを書く人とは絶対に思わなかったはず。何かっていうとお決まりのパターンの人物が出てきやすいクリスティなので、その最たるもののヘイスティングズを早めに退場させたのは正解だと思う。

こんなことばっかブログに何回も書いていますが、私は特にヘイスティングズは嫌いではありません。単にヘイスティングズが出ると話がくどくなるので嫌なだけです。短編なんかで、ちょっと出てくる分には結構好きなんだけどな。長編でがっつり出てきて、今作みたいに的外れなことぶつぶつずっとつぶやかれると辟易します。ヘイスティングズをご使用の際は、容量・用法を守ってお使いください。

ヘイスティングズやらシンデレラ、ジロー刑事やらの('A`)要員を除いて考えれば、もしかしたら話としては少しは面白いのかも、と思わなくもなくもない。けど除いて考える気にもならん。死んだふりで逃亡しようとしたら、本当に殺されちゃったよ、という設定自体は面白いと思う。夫が死んだように見せかけなきゃ、と演技する気満々で見に行ったら、ほんとに夫が死んでた、とかもう超ショックですよ奥さん!


 
       
 
         
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