トラベルライターmugiの「旅行鞄にクリスティ」

トラベルライター兼フォトグラファーによる、 ラグジュアリー女子旅、ウェルネス旅行と美容の口コミレポ。 忙しい日常はちょっと見て見ぬふりをして、ご褒美旅行や偏愛コスメの世界に逃避行し元気をチャージして戻ってくる現実逃避ブログです。当ブログはプロモーションを含みます。


【本】『ポアロ登場』― 割とすっとんきょうなポアロです

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『ポアロ登場』☆☆★★★

ポアロ登場』、なんかまるでポアロの初登場作みたいな題名ですね。しかし一番最初に出た本は『スタイルズ荘の怪事件』で1920年、一方『ポアロ登場』は1924年。もしかして、短編としては先に雑誌に連載していたけれど、本として出版されたのはスタイルズ荘の方が早かった、とかいうどこぞの老嬢の火曜クラブ的事情?と思いましたが、今作のあとがきによると、雑誌に連載されたのは1921年~1924年にかけてらしい。

だったらなんでこんな題名つけたんでしょうかね、と思ったら、原題は ”Poirot Investigates” だそうな。ポアロは捜査する、ポアロ捜査中、みたいな感じになるのか?登場はどっから出てきたんだろう。とにかく、この本は特に初登場とは関係はないらしい。そしてなんかもったい付けた登場の仕方をしたりもしないw

  ⇒アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

今作には14編の短編、全てポアロ物がおさめられている。この訳では、結構ポアロもヘイスティングズも口が悪い。 ”くそ!” ”見てみろよ” ”~ちまった!” ”~だZE☆” とか。初期の作品だからわりと若い感じなのか、まだ初期でまだキャラが固まってなかったのか、単なる訳者の違いか。この訳はちょっと違和感があるかな~。アガサ・クリスティを読み始めた頃は海外作品に慣れていなかったせいでとても読みにくいと思っていた翻訳独特の言い回しも、今じゃすっかりある意味壺になっていますが、それでも今だにこの作品だけはなんか読みづらいです。

特に収録中のとある短編で、女性の犯人が「あばよ!」と言っていたのにはおったまげました。「あばよ!」とかいうすっとんきょうなセリフを言う人は、女性はおろか男性でも柳沢慎吾以外に見たことがありません。いつもよりテンション高めのハッスルポアロがてんてこまいで、こりゃびっくらこいたぜすっとこどっこいな気分がしこたま味わえます。こんな感じの文章(ほんとか?)。テンションと口調があっていないというか、結構行動とか若い(当社比)感じなのに、使ってる言葉が所々おじいちゃんみたいなw



また、宝石「<西部の星>盗難事件」の最後で、ポアロにいっぱい食わされたヘイスティングズが怒り狂っている時の心の声の一人称が「おれ」でした。この本だとヘイの会話時は「ぼく」、地の文では「わたし」。ちなみにポアロさんも、会話時は平常時は「ぼく」ですが、「謎の遺言書」では糸口をつかんで慌てた場面では「おれ」と言っている。この本では、怒ったり慌てたりと素が出る場面では「おれ」になる、という感じで訳してるんですかね。

別に一人称はなんでもいいですけど、途中で変わるとなんか違和感あります。女性だと一人称は別に変えないのでいまいち理解できないのですが、世の中の男性はそんな感じなんでしょうか。

フッティルーティン


もともと私は短編がそんなに好きではないのに加えて、この話は初期の話のせいかポアロっぽさが感じられないのでそんなに面白くなかった。いろんなところに頭突っ込んで這いずり回って手がかりを探してます。「ダヴンハイム失踪」とかは安楽椅子探偵ではあるものの、それも事件というお題があって、手掛かりはこれこれですよ、はい謎解き、というオーソドックスな感じでおわっちゃう。ポアロお得意の人間性云々とかは無い。



話の感想を1作ずつ書くのは面倒なので省略。思いついたのだけ適当に以下に。この本の中で比較的好きなのは「チョコレートの箱」です。ポアロが、唯一推理に失敗した事件、という題材が面白いのと、何と言っても最後の、ポアロとヘイスティングズの掛け合いが好きです。ぼくが自惚れ出したと思ったらチョコレートの箱って言ってくれ、と言った数行後に「チョコレートの箱」と言われるポアロが素敵です。そしてやはりヘイは事件にしゃしゃり出てこないで、鈍感な聞き役に徹して頂くと良い感じ。



でもこれも、事件としてはいまいちかな。ポアロらしい「人間性に基づいた推理」とかもまだない感じで、関係者とろくに会話もしていない。短編だから文字数の関係もあるのかもしれないけど。ポアロがよく言っていた「自分の推理に合わないパズルのピースがあった時に、取るに足らない情報と切り捨ててしまうのではなく、推理の方が間違っていると考える」という考え方もまだ無い。それがまさに今回のちぐはぐな「チョコレートの箱」なので、その考え方ができてないせいで失敗して、それからこういう推理方法になった、という流れなのかもしれないけど。

そんなこんなで、せっかくのポアロの失敗作ですが、いまいち「ポアロ」の失敗という感じがしない、他の人の推理を読んでいるような感じ。初期のころなのでまだポアロの推理方法が固まっていなかったのかな。このお題(ポアロが唯一推理に失敗した事件)は、もっとポアロのキャラの固まった中期以降に書かれていたら、もしかしたらもっと面白かったかも。

「エジプト墳墓の謎」では船酔いでぐったりし、らくだの背に悲鳴をあげロバに乗り換え、「総理大臣の失踪」では怪しげな船酔い体操をしているポアロが、まさか後々ナイルに船旅に行くまでになるとはね。この船酔い設定はどうなったんでしょうね。なんか言及ありましたっけ。覚えていない。ラヴェルギエの船酔い予防体操とやらが効いて大丈夫になったんですかね。それともびっこ設定みたいに無かったことになってるんでしょうか。そういえば考古学者の旦那さんと再婚したから中東物が多いのかと思ったけれど、結構初期からあったんですね~。


 
       
 
         
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