旅行鞄にクリスティ

日々のあれこれを忘れ、手の届く贅沢で自分を甘やかし明日への活力を養うブログです。バッグにアガサ・クリスティを詰めて行く海外旅行が最大のご褒美。


【本】『青列車の秘密』(ポアロ物)―イギリスのお貴族様の暮らしぶりホホホ、と割り切れば楽しい


『青列車の秘密』☆☆☆☆★

なぜだか知りませんが、まだアガサ・クリスティ作品をよく知らなかった初期の頃に、アガサクリスティの代表作は『オリエント急行の殺人』と『青列車の秘密』だと思い込んでいた時期があります。初期のころ、というか結構何年もそう思い込んでいたわ。なんでだろう、列車ものということで『オリエント急行の殺人』と混ざったのかな?それとも他の作家の ”なんちゃらトレイン殺人事件” とかとまざったのだろうか。

よくわかりませんが、とにかくそう思い込んでいた影響か、私この話非常に好きです。なので、いまいちこの作品の評価が高くないことを知った時は驚きました。そしてクリスティ自身もこの話はあまり好きではなかったようなので残念です。

そう言われてよく考えると確かにこの話、個人的にも苦手な要素がたくさんあります。その前に、あらすじ~。なおこの感想は原作の方のものなので、ドラマ体探偵ポワロ版の感想をお探しの方は、下の感想一覧からどうぞ。

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大富豪の娘ルスが青列車で殺害され、名高い宝石<火の心>が盗まれた。ルスはW不倫の末、火の車の夫相手に離婚訴訟を起こそうとしていたところだった。生前のルスとたまたま列車で相席になった縁で打ち明け話を聞かされたキャザリンは、偶然青列車に居合わせたポアロと親しくなる。

滞在しているニースの親戚宅で行われたパーティの招待客の中に、キャザリンは再びあの男、サボイ・ホテルで、旅行案内所で、そして青列車で見かけた男を見つける。彼はルスの夫で、彼女の死により巨額の遺産を手にしていた。


この話、まずは発端となる宝石の名前からしてキてます。<火の心>です。しかも、裏世界の骨董商やら、情報屋やら、なんかまた鳥肌物のけったいな冒険物の匂いがプンプン。…やめて、クリスティで冒険物は鬼門だわ。しかも敵は”侯爵”とかいう通り名まで持ってるし。このそこかしこから立ち昇る中二病臭。



そしてその情報屋のゴビィ、この話以降も何度か登場し、決して嫌いな人物ではないのですが、なんとなくこの立場はズルい。推理に必要な情報を、収集の過程もすっ飛ばしてあっというまにテーブルに出してくるのが、なんか都合よすぎるような。それにそんな便利な奴いるか???と白けてしまう。いや、小説にそんなに目くじら立ててもしょうがないけど。しょうもない情報集めにあまりページ数を割くのもあれなんで~、という大人の配慮かもしれませんが、 ”説明しよう!ここに座っているのは人の目を見ないいかにも冴えない男。しかしこの男が人たび指パッチンすれば、世界中のありとあらゆる情報が瞬時に手に入るのだ~わはは” 的なノリには、はあ、そうですか、としか言いようがないよ。

そしてこの話は、ミステリーと冒険と恋愛を混ぜて3で割った、と言うか3段重ねにして1/3にしたような感じの話で、結構恋愛話の占める割合が多く。一応主人公がキャザリンという落ち着いた女性なので男も女も浮かれポンチにならず、クリスティによくある頭に花咲いてそうな愛の囁きはあまりないのですが、かといって読み応えのある恋愛話かというと、そうでもない。

というのも、キャザリンはあまり内面を見せないのですよね。そこがミステリアスで魅力ではあるのですが。似たような聡明な女性の恋のさや当てのある話に『パディントン発4時50分』があり、そちらはルーシーの意味深な独白がそこかしこに描かれていて、読んでいて共感があったり誰を選ぶの?とわくわくしたりもするのですが、この話は残念ながらそれがない。恋愛話の占める割合が多い割に恋愛系が不完全燃焼な感じ。ミステリーとしては中途半端、冒険物は鬼門、と全体的にどっちつかずな、中心がどこの誰にあるかもわからんこのお話。

ドラマ版感想はこちら⇒【ドラマ】名探偵ポワロ『青列車の秘密』 ―勢いで乗り切る
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら


以下ネタばれあり

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それと犯人が劇場関係というのも苦手です。これ、クリスティ作品で多いですよね。演技で他人や他の職業になりすまして犯行を行う、ということですが、これ結構無理があるような気がする。正直俳優・女優ってだけでそこまで別人になりきれるとは思えないのですが…。でもまぁこの話では顔を知っている人には会っていないので、この程度ならまあいいかな。

こうしてみると、結構苦手な点が多いですね。ではなんでこの話好きなのかと考えると、イギリスの中・上流階級の豪華な暮らしぶりを垣間見ることができるから、これがでかいです。リヴィエラでの過ごし方や、女性陣のファッション、旅のスタイル等。遺産を手に入れたキャザリンがドレスを注文するシーンなんて垂涎ものです。ドレスがいっぱい!ミモザのドレス素敵!そういやクレープデシンって何?と興奮するようなよくわからないような気分が味わえます。きっとキャザリンも同じような気分だったでしょう。



個人的に気になるものに、宝石の入れ物として出てくるモロッコ皮の化粧箱があります。たしか『雲をつかむ死』でも出てきたような気がしますが、昔から何か素敵っぽい気がする~と密かに憧れてはいたものの、いまいち化粧箱というものがわからない。綺麗な箱という意味のいわゆる「化粧箱」のことなのか、その名の通り化粧品を持ち歩くものなのか、それとも宝石入れなのかしらよくわからん。どちらにしても、外出時に持ち歩く化粧ポーチなら革だとトイレで化粧直ししずらいしw、宝石ケースを持ち歩くような用事はないしで、いわゆる「化粧箱」は持ち歩くには不便だし、一般人に縁のあるものではなかったわw こういうのはメイドがいる人ならでは持ち物ですよね。



そして私はどうしてもモロッコ革といわれるとバブーシュ、バブーシュといえば旅行用飛行機内スリッパを連想してしまい、毛皮のコートを着てバブーシュをはいている足元だけ庶民派なルスがチラチラと頭に浮かぶのはどうにかならないですかね?そんなことはさておき、そのほかもミンクの毛皮やら宝石やら、イケメン・妖婦との三角・四角関係とか、キャピッとした楽しみどころが盛りだくさんです。



また渋所では、恐るべき老婦人とでも言うべきミス・ヴァイナーのお話も興味深い。金庫なんか買ってきて小さな親切余計なお世話をしてくれる夫のご機嫌を損ねずにあしらう方法とかw、男性が本当の恋をしている時は羊のように気弱になるとか、ミス・マープルに出てきそうなおばあちゃんの知恵袋的お説教が読めます。そうそう、この話、ミス・マープルの住む村セント・メアリ・ミードが初めて出てくる話でもあるんですね。初出はマープルものではなくポアロものだったという。

初出といえば、パポポラス、ゴビィ、ジョージはこの作品が初登場でいいのかな?この話、登場人物も結構楽しめます。ばらばらとした感想の書き方でもわかると思いますが、これ!といって印象に残るキャラや共感できるキャラはいない。キャザリンのところでも書きましたが、登場人物が多いせいか内面を掘り下げていたりはしなく、全体的に軽~い印象。でもそのかわり出てくる人は皆結構好きなタイプです。

中でも私のお気に入りはタムリン子爵夫人です。キャザリンからお金を巻き上げようとしたハーフィールド老婦人の親族が何度も手紙を書き直したのに対して、同じようにお金目当てのタムリン子爵夫人が一度で満足いくものを書き上げたのは、いかにもこういうことばかりは頭のまわる厚顔無恥でしたたかな女性らしいエピソードで気に入っています。この手の、クリスティで良く出てくる「あたくし~でしてよ」系のしゃべり方をする女性が私は割と好きですw 良くってよ良くってよ。あとはキャザリンが、数々のドレスを見た後に、私の人生はもう秋なんだと気付いて、遺産を貰う前よりもの悲しさを感じるエピソードが好きです。



こうやって見ると、好きなところは話しの内容あんま関係ないな。我ながらひたすらミーハーで軽い楽しみ方だわ。いいんだ、私がクリスティを読む最大の動機は、イギリスのノスタルジックな上流階級の暮らしぶりを堪能することなんだから。推理なんてはなから諦めているんだから。

謎解きとしては、ポアロはルスの顔が潰されていたことと、メイドのシガレットケースに関する証言が信用ならなかったことから真犯人を導き出したということなのでしょうか。なんか納得いかないような。これだとなんか、こういう考え方もできるよね~以上のものではないような気も。キャザリンにいたっては霊感降りてきちゃったよ。う~ん。もうちょっと証拠があってもよかったかな。

キャザリンも、話としてはなんで出てきたのかちょっと微妙。犯人が女性にのぼせ上がってボロをだした、というのは面白いけど、冷静に考えると単に生前に被害者と最後に話した人物ってだけだし、そこまで事件に関わってくるような立ち位置ではないよね。しかしこの話、主役はポアロではなくキャザリン。キャザリンが、人生の傍観者から演じる側になり、事件と遺産に翻弄されながらも自分を見失わず幸せを掴むまでのお話。にしてはあまり内面を語らないし、事件へのかかわりは中途半端だし、ここら辺の人物描写の物足りなさは初期の作品によくある感じです。

でも文句を言いながらも、犯人の意外さや、途中から被害者が別人だったなんて全然思わなかったし、私は最後まで楽しめました。この犯人はびっくりだよな~。

うん、やっぱりこの話は好きだ。何回読んでもドレスのシーンはわくわくするし、読みながらいやこいつは犯人ではないだろう、お願いそうと言ってと思ってしまうしw 何も考えずに楽しめるのが良いところです。そして最後ポアロが、心が折れそうになるキャザリンを励ますシーン、そして傷心に耐えながら想い人の役に立てたのだと自らを慰めるレノックスを励ますシーンがいいですね。ポアロが、異なる時、違う立場の二人にかけた言葉が、偶然にも一緒でした。

勇気を出すのです、マドモアゼル。 ―エルキュール・ポアロ



※追記
コメント頂いた方、ありがとうございます。ドラマ版はまだ録画したきり見れていないのですが楽しみです。4月以降少し時間が取れそうなので、また抜けているドラマ・本の感想をゆっくり上げていきたいと思っています。
 
       
 
         
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