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『ABC殺人事件』☆☆☆☆★ドラマ名探偵ポワロの視聴の前に原作を読み返そう、ということで、原作『
ABC殺人事件
』の感想です。本の感想を書くのは久しぶりかも…とブログを見返してみたら、8か月振りだったわ。そう言えば、当初は旅行&読んだ本の感想ブログとして始めた時もあったような…。
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【ドラマ】名探偵ポワロ『ABC殺人事件』 ―原作の方が好きだけれどもそんなことはさておき『
ABC殺人事件
』、これは面白いですね~。初めて読んだのはいつかはもう忘れてしまいましたが、え?え?これどうなってるの?なにこれ?と完全に最初から最後まで騙されまくった初読時の驚きは今でも覚えています。続きが気になってあっという間に読み切ったような。そして筋と犯人が分かっていて読んでもやっぱり面白いです。とりあえずあらすじ―
ABCを名乗る者からポアロ宛に、来たる21日にアンドーヴァで事件が起こると挑戦状が届く。心配するポワロをよそに警察はいたずらと取り合わず、指定された日に起こったのは煙草屋の老婆が殺害されるというありふれた小さな事件のみだった。しかし死体のそばにはABC鉄道案内が置かれており、そして再びABCを名乗る者から第2第3の殺意予告が届く。
事件も面白いけど、この話は冒頭からしてキてます。ポアロの毛染め話にまず2ページ。久しぶりに再会した中年男子2人が真っ先にチェックするのはお互いの毛髪の具合なのでしょうか。やっと毛染め話が終わって挑戦状に話が移ったと思ったら、これまた久しぶりに再会したジャップ警部に頭頂部の薄さを指摘されて動揺するヘイスティングズwww 気にしてたのね。その場では適当に流しながらもジャップ警部が去った後にブツブツと嫌味を言うヘイスティングスに、今はいいものがあるからと暗にカツラを勧めて慰めるポアロに向かって、
「あなたのけしからん床屋のけがらわしい発明なんてくそくらえだ、ぼくの知ったことか。そもそもぼくの頭のてっぺんがどうしたって言うんですか?まさか禿げてきたなんて、言うつもりじゃないでしょうね」これまでポアロに頭の働きについてありとあらゆる侮辱をされてもポジティブシンキンと言う名の鈍感さで受け流してきたヘイスティングズなのに、頭頂部の話題に関しては、ちょっと触れられただけで1ページ以上に渡ってブチギレ。頭髪には多感なお年頃なのね。もうこの時点で、名作の予感がするよね。
ポアロのおひげが、まんまと第2の殺人をやられて過敏になっている主人に初めて無視されるという大事件が起こる今作で、ホワイトヘブン荘も初登場。ロンドンの超モダンな賄い付きマンションとのことで、賄い付きというのがよくわからないのですがルームサービス的な感じなんでしょうか?原作ポアロは自ら料理をしたりしない(と思う)ので、ジョージがいない時はこの賄い飯を食べているのかな。美食家ポワロさんはそういうの食べなそうな気もしますが。このマンションやホームズの下宿のおかみさん等、昔のイギリスだと住んでいるところで食事まで用意してくれるのが普通だったんですかね?
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以下ネタバレあり

ABCがなぜ犯行を防がれるリスクを冒してまで犯行予告を送ったか。それは狂人によるアルファベット順の連続殺人に見せかけた中に本命の殺人を潜りこませて、動機を目くらましさせる為。ここがまずこの話で面白いところ。犯人が犯行予告やら犯行声明を出す小説は、割と犯人はさいこぱす的な描写で終わってしまう話が多い気がしますが、そうではなく論理的に考えられた犯行の一部だったというのが良いです。しかもポアロ宛に送られた理由も理に適っている。最終的に分かってみれば、魅力的な人物=犯人、動機は財産狙いのお家騒動というクリスティ作品で良く扱われるオチでしたが。私はクリスティ作品で、人好きのするお屋敷の次男坊が出てきたらまず疑うことにしていますw 金遣いが荒かったら満点。
3つの別個の殺人を扱っているため各々つながりのない登場人物が多く、人間関係の掘り下げなんかは少ないのでその点では面白味は少ないです。でもかわりに際立っているのが、犯人のスケープゴートにされたカスト氏。殺人の犯人でも被害者でもなく、本来無関係であった身代わりの彼がこの話の主人公と言ってもいいかも。
目立たず小心者でまじめで愚鈍な男。そういう男を選んだものの、適役過ぎて3つの犯行現場にいたのに誰にも気づかれず犯人を慌てさせるぐらい人目をひかない地味な男。何をやっても失敗続きで馬鹿にされ、自分に自信が無く人の言うことに従うことになれているため暗示にかかりやすい。そして癲癇の発作で記憶が飛ぶことがある。こういった状況で、自分の行く先々で殺人事件が起こり、そしてついに自分の手についた血と、ポケットに入っていた血まみれのナイフという決定的証拠が。罠にはめられどうすればよいかわからず追い詰めらていく様子がリアルなのですが、初読時はここが普通に犯行がばれそうになった殺人犯としての描写に読めるのがまたこの作品のすごいところです。読み進めながら、「今作は犯人側からの描写もあるのか。あれ、でもそうしたら推理小説にならない。実はこの人が犯人じゃないとか?いやどう考えてもこの人犯人だよね。どういうことだ?もしかしてこの人、他の登場人物の誰かと同一人物?」とかいろいろ考えましたが、最後まで犯人はわかりませんでした。
後から改めてカスト氏視点で読むと、一人追い詰められるような恐怖を感じます。違う、自分じゃないと言いたい、けれど記憶がない。恐怖に思う相手は自分なわけで、自分からは逃げれもしない。こんなこと誰にも相談できないし、する相手もいない。どうすればいいのかと立ち尽くし、ぎこちなく動き始め、逃走する。自分が罪を犯した確証はないけど、見つかりそうになって咄嗟に逃げてしまうところは割と共感してしまいます。血の付いたナイフを持っていて、記憶がない状況で私は自ら警察には行けないかな~、逃げ続けるのもつらいけど、まず最初はつい逃げてしまうだろうな。そして逃げて疲れきってたどり着いたところが警察所だった時にはもう、人生への諦めのようなものを感じそう。この話は、やってもいない犯罪をいかに自分がやったと思いこませるか、という点がポイントだと思いますが、くたびれた雑巾のように扱われた人間が、そういう運命なんだ逃れられないんだと犯罪者としての自分を受け入れてしまう過程が、いかにも起こり得そうで切ない。そしてそれを人間が意図的にやっているのだと思うと胸クソが悪くなります。なのでカスト氏に下宿先の娘リリーが助け舟を出し逃がしてあげる部分は、読んでいて嬉しかった。と言っても初読時はリリー怪しい、こいつが犯人じゃ…!と思ったものですがwとりあえず手あたり次第疑ってみる。この体験が、どこかで誰かは自分を見ててくれる人がいるんだ、とカスト氏の救いになればいいな、新聞社からもらうお金だけじゃなくw
自分の兄を財産目当てに殺すついでに他に3人殺し、さらにそれと同時並行で、一人の無実な男を小突き回し操り罠にはめて狩る。今まで特に数えていなかったけど、ポアロ物で出てくる犯人で一番殺した人数が多いのは誰だろう?殺人以外にも凶悪な犯罪もあるし、それこそ『
カーテン
』にでてくるようなやつはどうやって数えるのかという問題もありますが、この4人殺してさらに一人を冤罪で絞首刑にする直前で捕まったフランクリン・クラークは、結構上位に食い込みそう。
殺した人数:4人+濡れ衣被せる用に1人用意(未遂)
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アガサ・クリスティー 早川書房 2003-11-11
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