旅行鞄にクリスティ

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【ドラマ】名探偵ポワロ『雲をつかむ死』 ―謎の英仏警察対決


『雲をつかむ死』

原作がああだったので見るのが怖いような楽しみなような感じでドラマ版を視聴しました。結果、種明かしシーンではやっぱり笑ってしまいましたが、原作で不備!と指摘されたほどの犯行方法の破綻は無くなっていて、原作よりは納得できる感じかな~う~んどうだろう、みたいな。

でも個人的に昨年行ったパリのサンジェルマン・デ・プレあたりが映ったりして、映像として見ていて楽しく。まるで旅行番組のように見ていたかも。



それに映像になるとあの時代の雰囲気がより感じられて良かった。当時の飛行機のサイズ感とか、書籍の冒頭に座席表が描かれていてもいまいちピンと来なかったし。セットっぽい感じはあったけれども、シートのアンティークな雰囲気がとても好み。テニスの全仏オープンのシーンの、手作業の点数板やウェアのレトロ感も良い。

この時代のテニスは、シャツに長ズボンにベルトまでしてどこかの会社員か?というような恰好でやるのね。今見るととても動きづらそうだけど、この当時はこれでも動きやすい恰好の方だったのか。フレッド・ペリーと聞くと月桂樹のマークのポロシャツしか浮かんでこないのですが、その大元のテニス選手の方が登場。


wikipediaを見るとフレッド・ペリーが全仏でシングルで優勝しているのは1935年なので、ドラマではこの事件はその年の設定のようです。ここは完全ドラマオリジナルで、原作は飛行機搭乗シーンから話が開始、登場人物の顔合わせはジェーンの回想でちょっと触れられただけで、場所もテニス場ではなくカジノです。

カジノシーンだけでなく、原作と比べると話の大筋は変わっていないものの、かなり細かく変更になっています。まずは乗客・乗員がかなり整理されて少なくなっており、ヒロインの美容師ジェーンの職業がキャビンアテンダントになっている。

原作で持ち物の中から矢羽を吹ける筒状の物を探せ!とミスリードする為かのように提示された乗客の手荷物一覧も ”吹き矢で殺されたなんて誰も信じないよクスクス” とばかりにごっそり省かれてしまって、手荷物は話の合間にちょっと映るだけに。私は昔の細々した持ち物や化粧品、雑貨を見るのが大好きなので、ここはもっといろいろ見たかったな~。



持ち物と言えば、ポワロさんはいつもの白鳥のステッキは置いてきて、テニス観戦用になんと望遠鏡にもなるステッキを持参…と思ったら空港のシーンをよく見るといつものステッキと望遠鏡ステッキ両方(ついでに傘も)持っていた。バッグやら靴やらを取り替えるように、ステッキもTPOに合わせて取り替えるのね。なんておしゃれさんな。

その他、マダム・ジゼルの娘をちょっとの間メイドが育てていたことになっていたし、メイドが隠し持っていた「マダム・ジゼルの強請ネタ手帳」は全くなかったことに。改めて考えてみると確かにあのメモ帳、ドラマ化で容疑者となる乗客が削られたからという理由だけでなく、そもそも原作でも無くても話の都合上全然問題なかったかも…。

さて、吹き矢から見つけた紙片をジャップ警部の目の前でポッケないないするポワロ。 今回はポワロ、ジャップ警部、フルニエのトリオが面白かった。謎の英仏警察対決。



原作では割と優秀そうだったフルニエは、ごはん食べてたら書類燃やされちゃうし住所聞き忘れて容疑者には逃げられるし、ジャップ「主任」警部には机と電話と、しまいには部屋ごと取られて「ご苦労」言われる始末。フランス警察は大分バカにされていましたが、その割に原作での飛行機内で吹き矢を咥え乗客一同にガン見されるというフルニエ一世一代の珍場面は、その雄姿を乗客と一緒に生暖かい目で見守っていたはずのポワロに変更に。みな若干ボケキャラになっているのか。ポワロさん、すごい満足げだったな。

そして原作では心理的瞬間を言いだすのはフルニエ警部でしたが、なんとドラマではその「心理」という単語を嫌そうに聞いていたジャップ警部に変更に。ちょっとずつ役割が玉つきで変わっておる。猪突猛進タイプのジャップ警部が心理云々言うとちょっと違和感ありますね。



ポワロがジェーンと捜査と言う名のパリデートをしている一方、ジャップ警部はおばちゃんキラーになっていて、この扱いの差に泣けますw ポワロさんは割としょっちゅう綺麗な女性と連れだって美味しいとことっている。

原作ジェーンは美容室勤めでキャピッとした快活な女性でしたが、ドラマではもっと落ち着いた頭の良い淑女っぽい女性に。初め見た時はイメージとは違うし個性的な顔立ちでちょっとびっくりしたのですが、見ているうちに美人に見えるように。姿勢が綺麗な人は見ていてすがすがしいわ。それにしても顔ちっさい。

とまあ変わっているところをあげているとキリがないぐらい細かく多くの部分が変わっていて、制作する側の苦労が感じられるドラマ化になっています。

⇒原作感想はこちら:【本】『マダム・ジゼル殺人事件(雲をつかむ死)』(アガサ・クリスティ/ポアロ) ―吹き矢で殺人しちゃうゾ☆
アガサ・クリスティ作品感想一覧はこちら

以下ネタバレあり

パリ ラデュレ


さてさて、特に気になっていた、原作あとがきで犯行の不備として指摘されていた白衣の持ち運び方。これをドラマではどう処理するかとワクワクして見たら、白衣を持ち運ぶ方法ではなく、座席の位置とジェーンの職業を変えてきましたね~。

原作ではジェインは客室乗務員ではなく乗客の一人で、カジノで出会った素敵な男性ノーマンと飛行機で偶然向かい合わせになってドッキドキ☆ どうにかそちらを見ないよう自分に言い聞かせながらその実そちらを意識しまくり、と言う状態で、とてもジェインの目を盗んでこっそり白衣を取り出せるような状況ではなく。

そのおかげでノーマンのアリバイがより強固に証明された(ように思えた)のですが、まぁ別にその設定無くてもノーマンが被害者の方へ行っていないことは他の乗客が証言してくれるしね。なんでクリスティはこの座席配置にしなかったんだろう…。


他にも、他の乗客が荷物置き場にカバンを預ける中で、ジャン・デュポンが「考古学中の貴重品が入っているから」と鞄を預けるのを断るシーンは、手荷物にある筒状の物体を見せてミスリードを誘うために加えて、ノーマンが大きな鞄を手元に置いおいてもおかしくないよう見せるためもあるのかな。とにかく白衣の持ち運びに関しては特に不自然さも感じず。最初なんでジェーンの職業変えたのか不思議だったのですが、登場人物の整理ためだけでなくて、座席の事情もあるんでしょうね。

でもいずれにしろ、スチュワード姿は乗客からは盲点になっても、同僚からは盲点にならないのには変わりなく。そして映像で見るとこの殺害方法はますます無理そうに思えるわ。吹き矢筒を押し込むところなんか何の細工も慎重さもなく、普通にグイッと押し込んでましたw あんなんでいいのかYO!

飛行機乗ってる時に座席裏のポケットに後ろの人が乱暴に物入れたり液晶画面押したりすると、眠っていてもすぐ起きてしまう私としては、あんな入れ方でポワロもホーバリ伯爵夫人も気づかないなんて納得できないわ。しかも先っぽ堂々と出てるし。犯人も、すごい綱渡りな犯行なのに平然とのっしのっし歩いてましたな。


ただ一応、ドラマでは触れられていなかったので補足しておくと、マダム・ジゼルが毒を撃たれて軽い悲鳴を上げていましたが、原作では「飛行機内の轟音は耳栓する程ではないまでには静められていたが会話が弾む程ではない」という描写があり、犯行の際の小さな悲鳴は轟音でかき消されたということなっています。

また、歯医者の上着はスチュワードの上着によく似ているらしく、ノーマンが犯行に使った白い上着も歯医者の上着です。そして原作の雑談の中でノーマンは歯医者以前は南アフリカのファームで働いていたという会話が出てくるのですが、調査の結果ファームはファームでも農場ではなく毒蛇の養殖場の方のファームで、そこから今回使われた珍しい蛇毒ブームスラン(この名前はドラマでは出てこなかったような?)を入手する機会があったわけです。


乗客の持ち物一覧がなかったので、蜂を入れるのにぴったりな空箱を持ち歩いていたのがノーマンだけ、というポワロが真犯人にたどり着いたヒントを視聴者が知ることが出来なかったので、そこらへんはちょっと不親切な改変でした。

出てきたヒントは、変装が不自然に下手だったのと、白衣とマッチ箱、ぐらい? いろいろ端折られているので、ドラマ見て真犯人にたどり着けた人はいたのだろうか? いやそれ以前に、こんな犯行方法を堂々とやる人がいるとは(そして成功するとは)とても思いつかないよな~。

ジャン・デュポンとの絡みも端折られていたので、最後ジェーンには可哀想なままの終わり方になってしまいました。原作ではジェーンはジャン・デュポンにも言い寄られており、例によってポアロキューピットの導きによって勢いで美容室をやめ、最終的には発掘調査に助手として付いていくことに。描かれていませんがそのうちジャン・デュポンとくっつくんでしょうね。ドラマ版のジェーンも素敵な人だったので、すぐにいい人が見つかるはず。

そう言えば、挑戦状を送られた挙句4人も殺されてしまった『ABC殺人事件』の次の話で、すぐ傍で殺人が行われたのに眠りこけてて気が付かない『雲をつかむ死』が来るなんて、ドラマのポワロさんは面目丸つぶれ。がんばれ!ポワロさん。

今週は『愛国殺人』です。おや、歯医者ネタ2連発ね。



アガサ・クリスティ作品(名探偵ポワロ、ミス・マープル含む)感想一覧はこちら

『名探偵ポワロ』シーズン3


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